【Q】
介護老人保健施設に医師が入所中で,多少の認知症がありますが,死亡の判断はできます。もちろん施設と雇用関係はありません。
施設では看取りを家族に説明し承諾を頂いている利用者がいます。施設長不在時のこの利用者の死亡の扱いですが,(1)入所中の医師による死亡確認を行い,翌日その時間をもって施設長が死亡判断をして書面を発行することは可能でしょうか。また,(2)翌日に施設長が死亡診断書を発行できない事情がある場合,入所中の医師に発行をゆだねることはできますか。死亡診断書がないと亡くなった入所者を施設外に搬出できません。もし可能な場合はあらかじめ家族の了解を得るつもりです。 (青森県 N)
【A】
死亡確認については,医師法上,医師による(1)診察に基づく「死亡診断書」と(2)検案に基づく「検案書」(以下,「死体検案書」)の作成が規定されています(医師法第19条,第20条)。
この区別は,厚生労働省作成の「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル(平成27年度版)」によれば,診療継続中であった患者で診療に係る傷病と関連した死亡原因の場合が「死亡診断書」とされ,それ以外が「死体検案書」とされています。すなわち,診療継続中の患者でない場合,および診療継続中でも診療に係る傷病と関連しない死亡原因の場合には「死体検案書」になる,とされています(どちらで記載しても,記載は同一書式によるもので,表題のみが異なっているにすぎません)。なお,私見では,上記で述べた区別は妥当ではないと考えますが,この点については別稿にゆずります。
したがって,上記の区別を前提にすれば,質問(1)については,施設長の発行書面は死亡者が施設長の診療継続中の入所者と思われるので,「死亡診断書」となります。(2)については,死亡確認が診療継続中ではない入所中医師であるため,「死体検案書」になります。これらの死亡確認は医師法上,医師の業務とされているので,施設との雇用関係の有無にかかわらず行うことができます。
ところで,診療継続中であろうがなかろうが,医師による死亡確認(検案)の結果,死体に「異状」があると認めたときは,医師法上,医師には24時間以内の 所轄警察署に対する届出義務があります(医師法第21条)。そして,この届出義務違反には罰則規定(50万円以下の罰金:医師法第33条の2,1号)があります。つまり,死亡確認を行うことのできる医師には,死体の異状の有無の判断能力が求められていることになります。その意味から本質問を検討するに,認知症である入所中医師が「死体検案書」を作成する場合には,死亡確認のみならず,異状の有無の判断能力を備えていることが必要と言えます。