株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

神経ブロックで麻酔が切れたあとも痛みが抑制される機序は?

No.4783 (2015年12月26日発行) P.64

西山隆久 (東京医科大学麻酔科学分野臨床講師)

濱田隆太 (東京医科大学麻酔科学分野)

大瀬戸清茂 (東京医科大学麻酔科学分野臨床教授)

登録日: 2015-12-26

最終更新日: 2016-10-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

腰痛などに対する神経ブロックは,局所麻酔薬の効果が切れたあとも痛みを抑制できるようですが,この機序を。 (長崎県 N)

【A】

神経ブロックで局所麻酔薬が投与されると,局所麻酔薬の作用時間以上(たとえば数日間から数週間,時に完治)に効果が現れることをよく経験します。特に急性期の痛みで多く経験することですが,慢性痛にもみられることがあります。この一見不可思議な現象は,「痛みの治療は唯一,感覚神経の遮断のみである」という古典的な痛みの機序では説明しきれません。本稿では,痛みの機序を神経ブロックの効果という観点から概説します。
痛みは「身体の危険を察知する」という生体防御機構の一部を担っています。しかし,この痛みの警報システムを放置すると,警報が必要ない状態(疾患の治癒など)になっても痛みが残存し,時に痛みが新しい痛みをつくり出して,より複雑な慢性痛になってしまいます。痛みが痛みを引き起こすメカニズムは種々の説が考えられていますが,その中でも神経系における痛みの増幅機構や痛みの悪循環について述べます。
(1)神経系の痛みの増幅機構
痛みの主因である局所の炎症により,発痛物質などが発生し,これにより痛みの閾値の低下が生じます。炎症は神経終末の痛みの感性を高め(末梢性感作),さらに脊髄より中枢側での感受性の亢進(中枢性感作)も引き起こします。そして,通常では痛みを感じない刺激(軽い接触や比較的低温での熱刺激など)で痛みを感じるようになります。神経ブロックにより局所麻酔薬が末梢神経からの信号を遮断することで,鎮痛作用とともに,これらの感受性亢進の予防に有効と言われています。また,局所の発痛物質を物理的に洗浄する効果も期待されます。
(2)痛みの悪循環
末梢の感覚神経からの信号が脊髄後角を経由して脳に届くと同時に,脊髄後角から脊髄前角の交感神経と運動神経にも届きます。運動神経の興奮は筋肉の攣縮を起こし,交感神経の興奮では血管の収縮に伴う虚血,感覚の過敏化が起きます。虚血により,発痛物質が生じ,炎症性物質とともに,痛みの強さや部位を大きくします。これが痛みの悪循環です。痛みの悪循環は早期に,かつ強力に断ち切ることが重要になりますが,神経ブロックは感覚神経,交感神経などに局所麻酔薬(時にステロイドや生理食塩水などの混注)を用いて,それぞれの神経の刺激伝達を遮断できるため,悪循環を断ち,長期間痛みを軽減する可能性があると言われています。
(3)そのほかの神経遮断法
ペインクリニックでは,局所麻酔薬での神経ブロックで効果時間が短い場合は,より効果時間の長い高周波熱凝固法やパルス療法,神経破壊薬などで治療を行うことがあります。

【参考】

▼ 日本ペインクリニック学会:痛みの治療.
[http://www.jspc.gr.jp/gakusei/gakusei_cure.html]

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top