【Q】
臨床検査技師に対し採血が認められていること,また,診療放射線技師に超音波検査が許可されていることに対して疑問を感じます。これらが法的に認められた経緯あるいは,歴史的背景についてご教示下さい。 (岐阜県 K)
【A】
(1)臨床検査技師が行う採血
現在の「臨床検査技師等に関する法律」は,当初「衛生検査技師法」と呼ばれていました。成立は,1958(昭和33)年4月23日です。その当時は,人体から採取した血液や尿などの検査が主でした。
その後,医療の進歩とともに臨床検査も著しい進展を見せました。このような状況を背景に当時の日本衛生検査技師会を中心として法律改正の必要性が叫ばれ,1966(昭和41)年に改正案が提示されました。その中で「生理検査,耳朶,静脈からの採血,消化液の採取など診療の補助行為の一部を担当するよう業務内容の拡大をはかること」が骨子案の1つとして示されています。
紆余曲折の後,1970(昭和45)年に法律が改正され,名称も「臨床検査技師,衛生検査技師等に関する法律」となりました。この改正により臨床検査技師が誕生し,臨床検査技師に従来衛生検査技師が行ってきた検査のほかに,脳波検査,心電図検査などの生理学的検査および検査のための採血を行うことが認められました。
ここで言う採血は,検査に必要な採血という趣旨です。国会の政府委員の答弁でも「あくまで検査のために行なう採血でございまして,治療その他のために行なう採血はこれに含まれないというふうに考えております」と同旨のことを述べています(文献1)。
以上のように,採血業務を求めたのは日本衛生検査技師会であり,それは臨床検査技師の地位の確立が目的であったのです。
(2)診療放射線技師が行う超音波検査
診療放射線技師に関しては1951(昭和26)年に「診療エツクス線技師法」が制定されましたが,その後,医療における放射線の利用が増大するにつれ,エックス線しか扱えない診療エックス線技師では不十分となりました。そこで,1968(昭和43)年に「診療エツクス線技師法」が改正され,新たに診療放射線技師の制度が設けられ,名称も1983(昭和58)年に「診療放射線技師及び診療エツクス線技師法」と改められました。
改正法は,放射線の定義を「アルフア線及びベータ線,ガンマ線,百万電子ボルト以上のエネルギーを有する電子線,エツクス線,その他政令で定める電磁波又は粒子線」としています。これは,現行法に引き継がれています。
さらに,1993(平成5)年には,これらに加え磁気共鳴画像診断装置,超音波診断装置,眼底写真撮影装置(散瞳薬を投与した者の眼底を撮影するためのものを除く),核医学診断装置を用いた検査が認められました(診療放射線技師法第24条の2,1号・同法施行令第17条)。
○
医療専門職については,必ずしもその名称が業務を画するわけではありません。時代と社会の必要に応じて,業務範囲は拡張されてきました。最近も,チーム医療を推進するために各医療職の業務を広げていこうとする方向が打ち出されています(文献2)。
1) 国会議事録:社会労働委員会18号. (昭和45年05月07日)
2) 医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について. (平成22年4月30日医政発0430第1号)
【参考】
▼ 厚生省医務局, 編:医制百年史. ぎょうせい, 1976.
▼ 日本臨床衛生検査技師会:社団法人日本臨床衛生検査技師会60年の記録. 日本臨床衛生検査技師会, 2012.
▼ 日本臨床衛生検査技師会:創立55周年・法人化45周年・法改正記念 日本臨床衛生検査技師会史平成14年度─平成19年度. 法改正の軌跡. 日本臨床衛生検査技師会, 2008.
▼ 佐藤乙一:臨床検査技師の制度とあゆみ. 佐藤乙一先生著作集出版記念会, 1983年7月28日.