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突然の筋肉痛・浮腫および高血圧は漢方薬の副作用でしょうか?【補中益気湯,加味帰脾湯,抑肝散併用例の筋肉痛,浮腫,高血圧の原因】

No.4804 (2016年05月21日発行) P.63

渡辺賢治 (慶應義塾大学環境情報学部・医学部兼担教授)

登録日: 2016-05-21

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

90歳,男性。朝に補中益気湯,昼に加味帰脾湯,夜に抑肝散を服用(服用量は1回主に2.5g)していたところ,突然,右下肢筋肉痛,浮腫をきたし,血清K値 3.7mEq/Lを示した。そこで,夜の抑肝散のみとしたところ,下肢の浮腫は引いたが収縮期血圧190mmHgとなり,一瞬倒れた(現在は収縮期血圧145mmHg)。右下肢筋肉痛や高血圧は,漢方薬の副作用と考えてよいでしょうか。 (兵庫県 N)

【A】

漢方薬服薬前の血清K値がわかれば判断は容易ですが,経過から考えると漢方薬に含まれる生薬,甘草による偽アルドステロン症の可能性が高いようです。発症機序としては,腸内細菌によって甘草に含まれるグリチルリチンのグルクロン酸抱合が外れ,グリチルレチン酸として吸収され,通常は肝臓で再びグルクロン酸抱合を受けて3-モノグルクロニルグリチルレチン酸(3-MGA)となり,胆汁中に排泄されます。グリチルレチン酸もしくは3-MGAが尿細管の11βヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼの活性を抑えることによってコルチゾールがコルチゾンに代謝されずに,鉱質コルチコイド受容体に結合してNaの再吸収を促すことによって,高血圧,浮腫,血清K値の低下をまねきます。
一般的には甘草の1日量が2.5gを超えると偽アルドステロン症を発症しやすいと言われています。
本症例の場合,朝に補中益気湯,昼に加味帰脾湯,夜に抑肝散ですと,1包当たり甘草の量がそれぞれ0.5g,0.3g,0.5gなので,合計しても1.3gにしかなりません。しかしながら甘草の副作用である偽アルドステロン症の発症には個人差が大きいため,注意が必要です。偽アルドステロン症発症に関わるグリチルレチン酸は腸内細菌の組成によって血中濃度が決まります。また,筆者ら(文献1)の調査では,K摂取が不足しがちな高齢者は発症しやすいことがわかっています。
偽アルドステロン症で最も危険な合併症は横紋筋融解症です。筋肉痛があるということですので,筋肉痛を訴えた場合にはぜひともCKの測定を行って下さい。横紋筋融解症の疑いがあれば,ミオグロビンの測定も必要になります。
現在,夜の抑肝散のみとして浮腫が軽減したということですが,血圧がまだ少し高いようです。いったん漢方薬を中止して,ほかの内服薬やサプリメントなどで血清K値を低下させているものがないかどうかをチェックして下さい。高齢によりもともとK摂取が不足している可能性もありますので,十分に摂取して血清K値が正常値にあることを確認してから,血清K値をモニターしつつ漢方薬を再開することをお勧め致します。

【文献】


1) Yoshino T, Watanabe K, et al:J Altern Complement Med. 2014;20(6):516-20.

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