日本にも条虫症は存在する。現在,わが国で最も患者数が多い条虫症は,サクラマスなどから感染する大型の条虫である日本海裂頭条虫(Diphyllobothrium nihonkaiense)の感染によるもので,当科でも日常たびたび遭遇する疾患である。欧州地域にも大型の条虫が分布しており,D. latumと命名されていた。従来,わが国にもこのD. latumが分布するとされ,和名を広節裂頭条虫と称した。しかし,遺伝子解析の結果,日本に分布するものの多くはD. latumとは別種であることが判明し,1986年にD. nihonkaiense(和名:日本海裂頭条虫)と命名された。
わが国ではこの大型の条虫症に対し,ビチオノールやニクロスアミドなどの効果的な駆虫薬が1960年以後に使用されるようになった。また,駆虫薬を使用しないDamaso de Rivas変法も行われた。その後1970年代になり硫酸パロモマイシンが使用されるようになった(最初はフマチンR,後にアミノサイジンR)。硫酸パロモマイシンはアミノグリコシド系抗菌薬で,50mg/kgを2回に分け30分間隔で服用させ,良好な駆虫成績を得ていた。その後,十二指腸下降脚や水平脚にゾンデを留置し,造影剤のガストログラフィンを注入する方法が流行した。駆虫効果は良好であったが,放射線被ばくとゾンデ挿入の苦痛から現在は行われなくなっている。現在はプラジカンテルの単回経口投与(5~10mg/kg)が行われ(文献1),良好な治療成績が得られている。プラジカンテル投与前後に下剤を投与すると比較的きれいな虫体を得ることができ,しかも回収が簡単で,頭節の有無の観察に適している。
1) Ohnishi K, et al:Intern Med. 2003;42(1):41-3.