肺癌において,2004年にEGFR遺伝子変異, 2007年にEML4-ALK遺伝子転座が発見され,単一の遺伝子異常“driver mutation”に強く依存する“oncogene addiction”の発がんメカニズムが明らかになった。日本人肺腺癌においてはEGFR遺伝子変異50%,ALK遺伝子転座5%を含め,約80%にドライバー遺伝子が存在する。
さらに,近年の次世代シークエンサーを中心としたゲノミクス技術の大幅な進歩は,ドライバー遺伝子の発見を後押ししている。2012年,肺腺癌新規ドライバー遺伝子としてのRETとROS1遺伝子転座の存在が報告された(文献1~3)。RETとROS1遺伝子転座は肺腺癌の各々約2%,約1%に存在すると報告されている。そのほか,2013年にNTRK1遺伝子転座(文献4),2014年にCD74-NRG1遺伝子転座(文献5)が報告されている。
これらのEGFR遺伝子変異以外のドライバー遺伝子変異は,肺腺癌の数%と限られた患者のみに認められるが,殺細胞性抗癌剤では得られない劇的な抗腫瘍効果をもたらす分子標的薬治療と直結する可能性があることから,その発見には大きな意義がある。今後の課題は,現在実施されている個々の薬剤ごとの関連遺伝子変異検査ではなく,ドライバー遺伝子や稀少体細胞変異を一度にスクリーニングできる診断法の開発であり,早期の実現が望まれている。
1) Kohno T, et al:Nat Med. 2012;18(3):375-7.
2) Takeuchi K, et al:Nat Med. 2012;18(3):378-81.
3) Lipson D, et al:Nat Med. 2012;18(3):382-4.
4) Vaishnavi A, et al:Nat Med. 2013;19(11): 1469-72.
5) Fernandez-Cuesta L, et al:Cancer Discov. 2014; 4(4):415-22.