関節リウマチ(RA)の治療は,生物学的製剤の登場により大きく進歩し,臨床的寛解をめざせるようになった。生物学的製剤は優れた臨床効果を持つが,高分子であるため,皮下注射あるいは点滴による投与を必要とする。
トファシチニブは,ヤヌスキナーゼ(JAK)を標的とした経口投与可能な低分子化合物であり,2013年3月に既存治療で効果不十分なRAに対し承認された。JAKは主に造血系細胞に発現するチロシンキナーゼであり,サイトカインの受容体と会合している。JAKは下流のシグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)を介して,種々のサイトカインの細胞内シグナル伝達を担っている。トファシチニブはリンパ球系に限局して発現し,免疫系で中心的な役割を果たしているJAK3を特異的に阻害する。わが国でMTX抵抗性のRA症例に対して行われたトファシチニブの第2相試験では,用量依存性の強い効果が認められた(文献1)。また,海外で行われた第3相試験においても,トファシチニブはRAに対しTNF阻害薬と同等の効果を示した(文献2)。
一方,安全性については,治験における悪性腫瘍の発症率は既存の報告と同等であるが,RAで発症率が高いとされる悪性リンパ腫より,肺癌や乳癌などの固形腫瘍が目立っていた。感染症では特に帯状疱疹が目立ち,生物学的製剤での発症率の約2~4倍であった。実臨床での悪性腫瘍や重篤な感染症の発現状況については,市販後全例調査により十分な検討が行われる予定である。
1) Tanaka Y, et al:Arthritis Care Res (Hoboken). 2011;63(8):1150-8.
2) van Vollenhoven RF, et al:N Engl J Med. 2012; 367(6):508-19.