平成22(2010)年に臓器移植法が改正され,家族の意思による臓器提供が可能となったことから臓器提供数が増加し,それに伴い心臓移植手術も年間三十数例実施されるようになっている。わが国における心臓移植後の10年生存率は約90%であり,海外におけるそれと比較し良好である。
心臓移植後の管理としては,拒絶反応と感染症合併の制御が柱となる。拒絶反応を予防するための免疫抑制剤は,カルシニューリン阻害薬としてタクロリムスまたはシクロスポリン,核酸合成阻害薬としてミコフェノール酸モフェチルまたはアザチオプリン,そしてステロイドからなる三者併用療法が確立している。近年になり新たな拒絶反応抑制薬として,mTOR(mammalian target of rapamycin)阻害薬としてのエベロリムスが臨床上利用可能となった(文献1)。細胞増殖に深く関与しているPI3K/Akt/mTOR経路を抑制することで,拒絶反応過程で活性化されるTおよびBリンパ球を抑制し,移植臓器への拒絶反応を制御する。
心臓移植後の長期遠隔期における治療困難な病態は,慢性拒絶反応としての移植後冠動脈病変と悪性腫瘍の合併である。エベロリムスは,血管平滑筋細胞増殖抑制作用により移植後冠動脈病変の予防と治療に効果が高い。さらにエベロリムスは,その作用機序から悪性腫瘍の治療薬としての効果もあることから,心臓移植後の長期生存者における悪性腫瘍の予防と治療に威力を発揮することが期待できる。実際,エベロリムスは腎癌や乳癌の治療薬としても承認が得られている。
1) Manito N, et al:Transplant Rev(Orlando). 2010;
24(3):129-42.