わが国では,近年の食生活の欧米化や超高齢社会の到来により,前立腺癌の罹患数,死亡数が増加している。前立腺癌は,多くの場合PSA(前立腺特異抗原)という腫瘍マーカーの上昇を契機に発見されるが,最近,マルチパラメトリックMRIと呼ばれる方法が,前立腺癌の原発巣評価における最も優れた診断ツールのひとつとして開発され,確定診断である前立腺生検の精度を向上させる目的も含めて,生検前に施行することが推奨されるようになってきた。
マルチパラメトリックMRIとは,従来から用いられてきた形態画像としてのT2強調像に,2種類以上の機能画像を組み合わせた診断法である。代表的な機能画像には,造影剤を用いて病巣の灌流を評価する造影ダイナミックと,水の拡散現象を画像化する拡散強調像(文献1)がある。特に拡散強調像は,悪性腫瘍のような水分子の拡散が遅い組織では信号が上昇する特徴を持ち,腫瘍検出のみならず,腫瘍悪性度の評価に有用である(文献1)。また,拡散能の程度は定性的のみならず,見かけの拡散係数(apparent diffusion coefficient:ADC)として定量でき,数値指標としての利用も可能である。さらに,マルチパラメトリックMRIの有用性は,腫瘍検出・局在診断,悪性度の評価に加え,病期診断,治療効果判定,再発診断や予後予測と多岐にわたり,得られる診断情報は前立腺癌の適切な治療法の決定においてきわめて重要となっている。
1) Tamada T, et al:NMR Biomed. 2014;27(1):25-38.