大阪の印刷工場で,現・元従業員が1,2-ジクロロプロパン/ジクロロメタンの高濃度曝露が原因と考えられる胆管癌を発症した事件は記憶に新しいが,また新たな業務上疾病が問題となっている。
この問題は,2015年12月に,福井市の化学工場で現・元従業員が相次いで膀胱癌を発症していた,と厚労省が発表したことを契機に,その後の調査においても新たな発症が確認された。この工場は,塗料や顔料の原料を製造する工場で,膀胱癌を発症した現・元従業員は,少なくとも5種類の化学物質を使用する製造工程に携わっており,その中には,発がん性が指摘されているオルト―トルイジンが含まれていた。今回の膀胱癌発症の原因と強く疑われているオルト―トルイジンは,生地などを染める染料や顔料,瞬間接着剤などの原料などになる芳香族アミンの一種で,無~黄色の液体である。日本産業衛生学会の分類では,「ヒトに対しておそらく発がん性がある」とされており,国際がん研究機関の分類でも最も上位の「発がん性あり」のグループ1に分類されている。
わが国では,60を超える事業所が,年間1t以上の本物質を取り扱う事業者として,経済産業省への届け出を行っているが,労働安全衛生法に基づく十分な安全対策を努力義務として課されている。厚労省は継続して調査を進めているが,今回の問題に限らず,職域における「発がん性物質」の安全対策の徹底が求められるところである。
▼ 厚生労働省:芳香族アミンの取扱事業場に関する調査結果等について.
[www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000110015.html]