わが国では2000年を境に胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)が急激に増加している。その原因は,ピロリ菌感染の減少,食事の欧米化,生活習慣の変化に加えて,肥満の増加にあると考えられる。わが国において肥満(BMI 25kg/m2以上)の頻度は,1980年から特に男性において徐々に増加しているが,女性では増加していない。
肥満によるGERDの発症要因には様々な機序が考えられる。肥満者では胃酸分泌量が多く,また,内臓肥満のため腹腔内圧や胃内圧が高いことから,食道内に胃内容物が逆流しやすい状態にある。さらに,肥満者は下部食道括約筋(lower e-sophageal sphincter:LES)圧が低いことも知られており,食道裂孔ヘルニアの形成に関与している。BMIとウエスト径は一過性LES弛緩と正の相関にあり,やはり肥満者はGERDが生じやすい環境にあることが窺える。また興味深いことに,肥満者には食道運動機能異常が多いことも報告されており,これらの病態が複雑に絡み合い,GERDが発症すると考えられる。
基礎的な研究として,内臓脂肪の増加・肥大化は,脂肪細胞自身の炎症を引き起こし,炎症性サイトカインを増加させ,抗炎症性サイトカインであるアディポネクチンの産生を低下させるが,そのこともGERDの発症に関与していることがわかってきた。しかしここ10年間,わが国の肥満者数は増加しておらず,また胃酸分泌量も増加していない。したがって,今後は肥満に関連して発症するGERDは増加しないかもしれない。
【解説】
1)渡 二郎,2)三輪洋人 兵庫医科大学内科学消化管科 1)教授 2)主任教授