直腸癌に対する腹腔鏡手術は,患者に対して低侵襲であるという利点があるが,直線的で自由度の少ない器具は,狭い骨盤内での操作が必要な直腸癌手術における技術的困難性の原因となっており,開腹手術への高い移行率や外科的剝離断端陽性率,自律神経障害による排尿機能障害や性機能障害などが問題点とされている。
最近登場したロボット(da Vinci Surgical SystemR)を用いた手術は,自由度の高い多関節を有する手術器具,3次元の術野画像,手ぶれ防止機構,直感的な操作性などにより,直腸癌に対する腹腔鏡手術における問題点を克服することが期待されている(文献1)。これまで腹腔鏡と同等の手術時間,出血量,合併症率などの安全性が示されている一方で,術後の機能温存において腹腔鏡手術より優れている可能性を示す報告がなされている。特に,術後早期の排尿機能と男性機能が優れていることが報告されており,直腸癌患者の術後QOL向上に大きく寄与することが期待される。しかしながら,再発率・生存率などの長期成績に関する報告はほとんどないのが現状である。
現在,(1)開腹移行率,(2)CRM陽性率,(3)局所再発率,(4)無病生存率,(5)全生存率,(6)合併症率,(7)死亡率,(8)QOL,(9)費用有効性,をエンドポイントとした国際的な無作為比較試験(ROLARR試験)が進行中であり(文献2),その結果が待たれる。
1) Ishihara S, et al:Int J Clin Oncol. 2015;20(4):633-40.
2) Collinson FJ, et al:Int J Colorectal Dis. 2012;27(2):233-41.