【Q】
特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)は原因不明の間質性肺炎の中でも予後不良の疾患であり,これまで効果がある薬物療法がない状況が続きましたが,最近,N-アセチルシステイン(N-acetylcysteine:NAC)の吸入,ピルフェニドンの有効性が報告され,また,2015年には新しい治療薬であるニンテダニブが発売されました。
これらの新規薬剤をどのようにIPF治療に用いていくかについては,臨床現場でまだ混乱があるのが実情ではないかと思います。この分野でのエキスパートである東邦大学・本間 栄先生に,これからのIPF治療の考え方についてご教示頂ければと思います。
【質問者】
桂 秀樹:東京女子医科大学八千代医療センター 呼吸器内科教授
【A】
現在,わが国では,一般にIPFと診断されたすべての患者に治療を行うわけではありません。重症度や進行度に合わせて,無治療での経過観察あるいは段階的な治療薬の選択が行われています。その理由として,(1)早期治療が奏効するエビデンスが存在しない点,(2)いったん治療を開始すれば,減量はできたとしてもリバウンドを危惧して薬剤の中止は困難となり,長期使用による副作用や患者の経済的負担が増える点,などが挙げられます。
以上の点をふまえて,現状でのIPFに対する薬物治療としては,重症度,疾患活動性〔6カ月で5~10%以上の努力肺活量(forced vital capacity:FVC)低下の有無〕を目安に,単剤あるいは併用療法を行っています。
[1]重症度1,2度
可能な限り専門機関で初めは無治療で経過観察とします。6カ月で5~10%以上のFVC低下を認めた場合は,年齢,副作用プロファイルを考慮し,NAC吸入療法,ピルフェニドンあるいはニンテダニブ単剤投与を開始します。なお,抗線維化薬投与に際し,可能な限り医療費助成制度を利用します。
[2]重症度3,4度
ピルフェニドンあるいはニンテダニブ単剤投与を開始します。その後,病勢進行が認められる場合,3剤の中から併用療法を考慮します(ピルフェニドン+NAC,ニンテダニブ+NAC,ピルフェニドン+ニンテダニブなど)。基本的に,単剤投与後の悪化時にはこれらの薬剤を併用しますが,ピルフェニドンおよびニンテダニブの併用療法は相互作用の問題があり,また長期の有効性と安全性のエビデンスがないため,慎重な対応が必要になると思います。