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精神障害者の行動制限の適切なあり方とは?【人権制限の考えと開放処遇】

No.4812 (2016年07月16日発行) P.66

高柳 功 (四方会有沢橋病院理事長・院長/元厚生労働省 精神保健福祉法に関する専門委員会委員)

登録日: 2016-07-16

最終更新日: 2016-12-19

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【Q】

当総合病院の精神科病棟は,基本的には開放処遇ですが,夜間や医療保護入院者が入院している場合などに閉める扉があります。当院では,可能な行動範囲を「扉内」,「病棟内」,「病院ロビーまで」,「フリー」と4段階に区分しています。任意入院患者の行動範囲をこのように段階的に区分するのは適法ですか。 (岐阜県 K)

【A】

ご質問の要旨は,主に任意入院者の行動制限に関わることですが,はじめに精神障害者の行動制限について昭和62(1987)年の精神保健法(現・精神保健福祉法)改正を境にどう変わってきたか振り返ってみます。
精神疾患では,幻覚や妄想のために自分の行動や衝動を抑えられないことが時に起こります。このような場合に精神科医は行動制限を行ってきましたが,これが医療行為なのか,人権制限なのか,あいまいなままでした。このような医師の行為が人権制限にあたる,とはっきり位置づけられたのが昭和62年の改正法です。医師に人権制限をなしうる特別な資格(精神保健指定医)を与え,厳格な入院手続きと入院患者の処遇の基準(精神保健福祉法第37条,昭和63年4月8日厚生省告示第130号)を設けました。また,平成3(1991)年に「精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」(文献1)(国連人権原則)が採択され,精神障害者の治療について,最も制限の少ない環境で,最も制限の少ない治療による,という原則が明記されました。
精神障害者の人権制限についてこのような歴史をふまえながら,ご質問の点について考えてみましょう。
総合病院精神科病棟の多くは1看護単位,40床~50床程度でしょうから,男・女,閉鎖・開放といった機能別に病床群をわけるわけにはいきません。ご質問にあるような弾力的な病棟運営を行っている病院が多いかと思われます。
このことについては,昭和62年法改正当時から,閉鎖病棟しかない場合,任意入院者を閉鎖病棟に入れざるをえないが,その中にあっても開放的処遇をするのが好ましい,とされています(文献2)。
1看護単位の開放病棟では,患者の興奮や自殺念慮などで一時的に病棟を閉鎖せざるをえないことは時にありますが,この場合でも任意入院者は個別に開放的な処遇がなされるようにしなければなりません。開放的な処遇とは,告示第130号で「夜間を除いて病院の出入りが自由に可能な処遇」とされています。
開放病棟を閉鎖するという対応は,臨時的なものであれば違法性はないと考えられます。ただし,漫然と閉鎖を続けることは避けなければなりません。病棟構造が明らかではないので「扉内」「病棟内」の区別はわかりませんが,一時的に閉鎖される病棟にいる任意入院者の行動については行動範囲を指定せず,自由とすべきでしょう。ただし,夜間については病院の管理規定に基づいて対応することが一般的です。違法性については任意入院者の開放処遇制限をしているか否か,告示第130号の基準によって判断されると思われます。

【文献】


1) 齋藤正彦:日精協誌. 1992;20(11):611-20.
2) 日本精神病院協会医療政策委員会:精神保健法Q&A. 日本精神病院協会, 1988, p11.

【参考】


? 高柳 功, 他, 編:3訂 精神保健福祉法の最新知識. 中央法規, 2015, p17-9.

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