(質問者:兵庫県 K)
無痛性心筋梗塞は無痛性心筋虚血の1つで,心電図や核医学検査などで客観的に心筋梗塞の存在が認められているにもかかわらず,胸痛等の症状がないものを指します。無痛性心筋虚血の病態としては,①心筋虚血の範囲や程度が軽度で痛覚として認識できない場合,②痛覚閾値が上昇し,痛覚として認識できない場合,が考えられます1)。糖尿病における無痛性心筋梗塞の原因には②が当てはまります。ほかにも高齢2),慢性腎不全3),高血圧4)が存在すると無痛性心筋虚血を起こしやすいことが知られています。日常臨床でも,しばしば高齢の無痛性心筋梗塞患者に遭遇します。
ほかに,老化などを促進し神経障害を引き起こすような疾患,たとえば脂質代謝異常や肥満なども,現在までに十分な検討はされていませんが,無痛性心筋虚血の原因の1つとなる可能性はあります。さらに心筋梗塞の既往がある例や心移植例でも神経障害があり,無痛性心筋虚血の頻度が高くなります。
報告によってばらつきはありますが,重要なことは,無痛性心筋虚血は糖尿病患者(34~42%)よりは少ないものの,非糖尿病患者(6~12%)においてもある一定の頻度で確認されていることです5)。つまり,無痛性心筋梗塞は糖尿病の神経障害だけが原因ではありません。加齢や他の動脈硬化をきたす疾患も原因になると考えられます。
【文献】
1) Gutterman DD:Circ J. 2009;73(5):785-97.
2) 小田修爾, 他:日老医誌. 1986;23(6):600-4.
3) Komukai K, et al:Circ J. 2007;71(9):1366-9.
4) Bacon SL, et al:J Hum Hypertens. 2006;20(9):672-8.
5) Nesto RW, et al:Am J Med. 1986;80(4C):40-7.
【回答者】
加藤宏司 久留米大学医療センター循環器内科准教授
廣松雄治 久留米大学医療センター内分泌代謝内科教授・病院長