脳性まひなどのQOL低下につながる重篤な後遺症をいかに減少させるかが周産期領域の新たな課題となってきている。2015年にはWHOが早産児の脳保護に硫酸マグネシウム投与の推奨を発表した。わが国で保険適用があるのは,妊婦へのステロイド投与(ベタメタゾン12mgを24時間ごとに2回筋注)で,児の肺成熟を促進し脳室内出血を減少させる効果がある。しかし,効果があるのは投与後1週以内に早産に至った場合であり,これを正確に予測診断することは難しい。2回投与の猶予なく早産に至ることもしばしば経験する。
筆者らの教室では,早産児の脳保護への新たな治療戦略として,分子状水素(H2)に着目してきた。H2は07年に脳梗塞モデルでの著明な効果が報告されて以降1),抗酸化・抗炎症・抗アポトーシス作用などの作用機序により糖尿病やパーキンソン病など,多くの疾患領域での有用性が報告されてきた2)。早産では子宮内炎症から破水に至り,子宮収縮が増強し,羊水過少により子宮収縮のたびに臍帯が圧迫され,児が虚血にさらされるという状況にしばしば陥るが,児に対する炎症3)4)と虚血再灌流による酸化ストレス5)のいずれにも,動物モデルでH2は児の脳保護効果を示した。
今後,さらなる長期予後の改善が期待される。
【文献】
1) Ohsawa I, et al:Nat Med. 2007;13(6):688-94.
2) Ichihara M, et al:Med Gas Res. 2015;5:12.
3) Imai K, et al:Free Radic Biol Med. 2016;91: 154-63.
4) Nakano T, et al:J Clin Biochem Nutr. 2015;57 (3):178-82.
5) Mano Y, et al:Free Radic Biol Med. 2014;69: 324-30.
【解説】
小谷友美 名古屋大学産婦人科講師