高齢者の誤嚥性肺炎は再発に備えた予防対策が重要である
経管栄養は不顕性誤嚥による肺炎の発症頻度を減らさない
予防には限界があり,終末期医療も含めた全人的ケアが必要である
わが国は世界でも群を抜く速さで高齢化が進んでいる。そのため,全死亡原因のうち肺炎の割合が増加しており,そのほとんどが高齢者で占められている。高齢者の肺炎はほとんどが誤嚥性肺炎であり,その病態は予後不良とされる1)2)。誤嚥性肺炎の診療においては治療とともに予防に焦点が当てられることが多いが,これは誤嚥反復のリスクを有するため,抗菌薬の投与のみでは予後改善は難しいことを示唆している。
本稿では,誤嚥性肺炎の予防をはじめ,近年,同時に議論されている経管栄養の是非の問題や,老年期の終焉像としての誤嚥性肺炎の位置づけについて,最近の知見を紹介する。
誤嚥が主な発症機序である高齢者肺炎の予防については,これまで国内外から多くの研究結果が報告されてきた。その予防法は,胃食道逆流の物理的予防,口腔内分泌物の病原性の低下,咳反射・嚥下機能の改善,免疫能の改善に大別される(図1)。
体位を半坐位に保つことが誤嚥のリスクを減らすことは現在では広く認識されているが,Orozco-Leviら3)の報告などが基礎になっている。これによると,食後4時間までは喉頭に分泌物が貯留し,5時間後から胃内容物の逆流が生じるが,半坐位によって不十分ながらもそれらを予防できる可能性を示した。一般的に寝たきりの状態にある高齢者は,食後約2時間の坐位保持が推奨されている4)。
胃内容物の量によっても胃食道逆流や誤嚥の発生頻度が変わることが報告されている。胃内容物の量が200mL以上の状態になるとそれらのリスクが高くなるとされ,胃内容量のモニターによる誤嚥予防の可能性が示されている5)。胃瘻からの栄養注入の速度は個々の誤嚥発生のリスクに応じて変更すべきであるが,胃内容量との関係を明確に記述した報告はない。また,腸管の蠕動運動が不十分になると,胃内容物の長期貯留,胃食道逆流,誤嚥の誘発につながる。そのため,腸管運動や排便を調整する薬剤の使用も検討されており,メトクロプラミド(プリンペラン Ⓡ )投与によって院内肺炎の発症頻度が減少したとの報告もある6)。また,マクロライド系抗菌薬のエリスロマイシンも,腸管運動を刺激して胃内容物を減少させ,経鼻栄養を奏効させる可能性がある7)。
残り4,782文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する