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(1)第一部 由井芳樹氏 インタビュー ARBを用いた臨床試験の問題点 [特別企画:ディオバン事件 問題点と教訓を考える]

No.4808 (2016年06月18日発行) P.28

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-24

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  • 【編集部】 バルサルタン(商品名:ディオバン)の臨床試験不正「ディオバン事件」が明らかになる最初のきっかけは、バルサルタン臨床試験の血圧値の統計的異質性を指摘した由井先生のConcern(懸念)が2012年に「Lancet」誌に掲載されたことでした。各試験の問題点について解説をお願いします。

    【由井】 各試験の根本的な共通点はARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)による“降圧を超えた臓器保護効果”を臨床試験で証明されたことにしようとした点です。各大学の調査委員会報告書、公益財団法人先端医療振興財団臨床研究情報センター(TRI)の報告書を中心に説明します(編集部注:ARB①〜⑤はバルサルタン、⑥カンデサルタン〔商品名:ブロプレス〕)。

    ① Jikei Heart Study(JHS)1)
    ② Kyoto Heart Study(KHS)2)

    これらは論文の血圧値とイベントに不正操作が加えられたことが明らかになりました。両論文とも撤回されています3)〜8)。KHSの撤回で問題になった血清カリウムの分布は、正規分布ではなく、対数正規分布であることに注意が必要です。

    ③ SMART9)

    尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)の値について、滋賀医大調査委員会は科学的論文として不適切と考え撤回を勧告し、実際撤回されました。全症例150例のうち101例でカルテデータを入手し、10.1%で不一致があり、最終評価の6カ月まで観察した92例では、バルサルタンとアムロジピンの間にはP=0.07で有意差がありませんでした。最終評価点である6カ月目に不一致症例が多くあり、この不一致症例の数値がバルサルタン、 アムロジピンで各々一方に偏っている点に不自然さがあり恣意性が否定できず、さらに外れ値の設定がバルサルタンで多いのに対しアムロジピンで少なく、これも恣意性が否定できませんでした。

    ④ VART10)

    千葉大学長から2014年5月23日付でVART論文取り下げ勧告が出されました。14年10月9日にVARTサブ解析論文11)が英国の医学誌から強制撤回になっています。当然主論文も撤回されてしかるべきなのに、まだ撤回されていません。主論文は日本高血圧学会の「Hypertension Research」誌に掲載されました。最近、経緯は不明ですが、主論文の修正論文が日本高血圧学会に提出され、その取扱いに関して、編集委員会、理事会で審議されたものの、結論が8月に持ち越されたと聞いています。公開されているTRI報告書 (2014年3月31日)と千葉大報告書(最終報告書およびVART追加統計解析報告書の2部)(14年7月15日)の要点を述べます。

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