▶年の瀬も迫った先月20日、福岡市で開かれた日本肺癌学会の学術集会へ足を運んだ。傍聴した高額薬剤問題をテーマにしたシンポジウムは1000人収容する大会場の6割程度が埋まり、盛況だったように思う。高額薬剤問題は「オプジーボ」の非小細胞肺癌への適応拡大が契機だっただけに、肺癌の専門家たちによる討論は熱が籠っていた。
▶演者の池田修一氏(国際医療福祉大)は「費用対効果評価を導入して薬価を細かく調整したところで、臨床現場にコスト意識がなければ意味がない」と述べ、「財源も念頭に置いた診療」が必要と強調。國頭英夫氏(日赤医療センター)は「医療保険制度を“焼野原”にし、今後の社会を担う世代を切り捨ててはならない」と、臨床医がコスト削減を意識した臨床研究に取り組むべきと訴えた。
▶フロアからは「医師は経済性ではなく患者の利益、薬剤の有効性をどこまでも第一に考えるべきだ」との声も上がった。保険医は納税者と患者の間で「二重の代理人」(double agent)と呼ばれる板挟み状態に陥る。ただ、シンポではその葛藤を超克する術や知恵についての議論はなく、専門家集団の中でも「適正な診療」を探る取り組みは緒に就いたばかりとの印象を受けた。一方、シンポを通じて「臨床的にも経済的にも適正な診療」という超難問に医療界が向き合い始めたことも確認できた。
▶今月17日にパリで開かれたOECD保健相会合の声明では、高額医療の適正利用に向け、各国で政府・医療関係者・製薬業界・患者間の「対話」の促進を求めているが、医療界が対話に臨むには「適正な」診療や保険償還に関してある程度の合意形成が必要だろう。実りある対話が早期に実現されるよう、超難問に挑む医師たちにエールを送りたい。