機能性胸やけ(FH)は,機能性消化管障害(FGID)のひとつとしてRome Ⅳ基準によって定義された,除外診断により抽出される症候群である。FHは,これまで胃食道逆流症(GERD)の中の粘膜傷害を認めない非びらん性胃食道逆流症(NERD)として包括的に扱われてきた経緯がある。近年,診断機器の進歩によって胃食道逆流を24時間食道インピーダンス・pHモニタリングにより詳細に測定することが可能となり,弱酸,非酸,気体逆流を感知し,胃食道逆流が関与するNERDおよび逆流性知覚過敏(reflux hypersensitivity)と逆流が関与しないFHを区別できるようになった。FHの病態は依然不明な点が多いが,圧や化学刺激に対する知覚過敏および中枢性過敏の関与が指摘されており,不眠,ストレス,不安などの心理的因子がこの食道知覚を変容させて症状発現に関与している。治療には,抗うつ薬や抗不安薬などが用いられるが,依然として確立されたものはなく,心理的要因をターゲットとした治療を考えることは1つの手段である。
一般臨床において胸やけ患者に遭遇したときにまず考えられる疾患は胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)であり,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)などの酸分泌抑制薬の投与が第一選択となる。しかし,上部消化管内視鏡検査で食道に粘膜傷害を認めるびらん性GERDは約30%と言われており,残りの70%は粘膜傷害のない非びらん性胃食道逆流症(non-erosive reflux disease:NERD)と考えられてきた。
酸分泌抑制薬治療,すなわちPPI治療に満足している患者は58%であり,必ずしもすべての患者が満足しているわけではない1)。また,NERDにおけるPPIの効果は37%とされ,酸分泌抑制薬が効果を示さず治療に難渋する群はPPI抵抗性NERDと呼ばれる。では,なぜPPIが効果を示さないのか。
その理由のひとつとして,逆流の関与しない機能性胸やけ(functional heartburn:FH)がこのNERDの中に含まれてしまっていたことが挙げられる(図1)。近年,このPPI抵抗性NERDと呼ばれる群にはNERDの一部,逆流性知覚過敏(reflux hypersensitivity),FHなどの種々の病態が含まれていることが明らかとなってきた。しかし現状,内視鏡検査だけでNERDとFHを鑑別することは容易でなく,今後の大きな課題である。
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