日本消化器病学会では2014年からGRADEシステムを用いたガイドラインを発表している
GRADEシステムでは研究の形式だけではなく研究内容からもエビデンスを評価している
エビデンスに利用可能性,負担,患者の好みなどを加味した推奨が行われている
2014年4月に日本消化器病学会は,消化器疾患4疾患に対する新しい診療ガイドラインを公表した1)~4)。これで従来から公表していた6疾患を加えて,日本消化器病学会としてはcommon diseases 10疾患のガイドラインを作成,公表したことになる。新しく作成した機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD),過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS),大腸ポリープ,NAFLD/NASHの4診療ガイドラインでは,その作成にGRADEシステムの考え方が導入されている。
GRADEとは,Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluationの略であり,診療ガイドラインを厳密に作成する世界基準となりつつある考え方である。従来から公表していたガイドラインは,「Minds診療ガイドライン作成の手引き2007」を参考に作成されていたため,日本消化器病学会のガイドライン作成方法が変更になったことになる。そこで,本稿では新しいガイドラインの作成がなぜGRADEシステムに沿ったものとなったのか,従来使用されていたものとどう異なるのかについて解説する。
日本消化器病学会が最初に作成した消化性潰瘍,GERD,胆石症,慢性膵炎,肝硬変,クローン病の6診療ガイドラインは「Minds診療ガイドライン作成の手引き2007」を参考に作成され,日本での標準的なエビデンスの質評価と標準的な推奨度の記載をめざしたものとなった。ところが,国内外のほかのグループが作成したガイドラインと比較してみると,エビデンスレベルの記載や推奨度が互いに微妙に異なり,エビデンスレベルが数字やアルファベットで示されているものがあった5)。これは,各ガイドライン作成団体が独自の改変を行ってきたため少しずつ異なった基準ができあがり,その結果,各ガイドラインを越えての情報共有が困難になったと考えられる。
従来の日本消化器病学会のガイドライン作成で用いられた文献のエビデンスレベル評価は,基本的に研究のデザインによって行われていた。ところが,同じ研究デザインであっても,その信頼性は症例数,ランダム化,コンシールメントの方法,追跡率などによって大きく変化する。また,推奨度を決定するにあたっては,リスクや負担,医療資源の利用可能性,患者の価値観や好みなども考慮に入れる必要があるが,日本消化器病学会の従来のガイドラインは,これらを十分に取り入れたものではなかった。そこで,新しくガイドラインを作成するにあたり,これらの欠点を克服することを目的に,世界標準となるべく作成されたGRADEシステムの考え方を取り入れてガイドラインを作成した。
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