(愛知県 N)
泌尿器科医の日常外来診療の中で,短期間のPSA値の変動に患者が一喜一憂する現場をしばしば経験します。病気ではありませんが,心理的な観点から“PSA disease”と言われ,今後の指針決定にも判断に迷う場面が少なからずあります。
ご存知のように,PSAは前立腺が産生する蛋白であり,前立腺癌細胞だけが産生したものではありません。前立腺癌の場合,前立腺癌細胞の基底細胞層が欠損し,PSAが血中に漏れやすくなり,その漏れ出た蛋白量を定量化したものです。前立腺肥大症や前立腺の炎症においても,軽度(急性炎症ではPSA値は数十まで上昇することもあります)に血中に漏れ出ることから,癌との鑑別が必要となります。
さて,ご質問の64歳男性のPSA値の推移ですが,確かに2012年以降,緩徐に上昇しています。PSAは短期間に測定した結果でも,若干の変動(専門用語ではPSA variation)を認めます。若干の変動値のゆらぎの多くは生理的変動であり,PSA値が低値(4.0ng/mL以下)のほうが,高値(4.0~10.0ng/mL)よりも,変動割合が大きいことが報告されております。一般的に変動は平均10%と言われていますが,大きい変動の場合,20%程度になることもあります(約20%の症例で認めます)1)。
残り777文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する