NICUは本来「生」を受けた喜びに満ち,これからの人生に希望で溢れている場である。
わが国の新生児医療はこの半世紀にわたり目覚ましく発展し,多くの生命が救えるようになった。その一方で,致死的異常を合併した胎児,新生児,超低出生体重児の成育限界の問題,回復不可な重度脳損傷など,一般的に言う「発達予後が万全とは言えない」児も存在し,それらの患者にどういった医療を提供すべきかなど,個人の死生観を問われる倫理的な問題も同時に存在する。
緩和ケアを実践するためには,意思決定のプロセスが重要である。意思決定(自己決定)のできない新生児や乳児の場合には,本人の「最善の利益」(best interest)を考えて法的代理人(通常家族)による代理意思決定をすることが基本となる。「何を大切にしたいのか」「その子らしさをどのように感じるか」「どういった過ごし方を希望するか」に耳を傾け,家族にとっての意味や価値観を語ってもらい,その意向に合った方針を家族とともに考え目標とする(協働意思決定:shared decision-making)。倫理的に許容される範疇であれば,その意思決定を最大限支援するとともに,非侵襲的な代替治療や緩和ケアの導入,終末期患者・家族中心のケアの提供を行うことが大原則となる。
NICUという集中治療と成育医療をともに行う現場では,急性期疾患による突然の終末期に対し,家族はその対応を考える余裕や心の準備がなされていないことがある。事前ケアプラン(advanced care planning)を行うことで願いを明確にし,「生命の輝きを支える医療とは何か」を家族とともに考え,選択していくことが大切である。
【解説】
豊 奈々絵*1,鍋谷まこと*2 *1淀川キリスト病院小児科医長 *2同部長/副院長