79歳の女性。主訴は腹痛。既往歴に急性胃粘膜病変,家族歴には特記すべきことはない。基礎疾患に便秘症,両側変形性膝関節症,変形性腰椎症がみられ,近医よりH2ブロッカー,胃粘膜保護剤,マグネシウム製剤,乳酸菌製剤が処方されており,継続内服していた。現病歴として,6月15日より間欠的腹痛を自覚していたが,便秘による腹痛と自己判断し放置していた。しかし徐々に増強し,6月21日深夜24時頃,急激に腹痛が増悪し,我慢していたが,さらに増強し,早朝7時30分頃に救急搬送受診となった。
来院時:顔面蒼白,意識清明,血圧115/71mmHg,脈拍122/分(不整脈なし),体温36.8℃,呼吸数26/分,SpO2 94%(room air),末梢血管収縮状態を呈していた。
当直研修医と内科である上級医が腹部所見をとり,左下腹部に明らかな圧痛はあるが,腹膜刺激症状ははっきりしないと判断した。腹部単純X線撮影では左側に小腸ガスはみられるものの,腹腔内遊離ガスやniveauなどもみられず,さらに血液生化学的検査結果では腎前性と思われる腎機能障害とCRP 24.6mg/dLと異常高値を示していたが,白血球数が8000/μLと正常域であった(表1)。
最初の診察医は圧痛がみられたものの腹膜刺激症状ははっきりしないと判断し,さらに白血球数も正常域を示しており,腹部単純X線撮影においても腹腔内遊離ガスやniveauなどもみられず腹膜炎と診断し得なかった。しかし,全身状態としては決して良好とは言えず,全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome;SIRS)状態を呈しており,どのような状態であるのか非常に悩んでいた。白血球数や腹部所見においても,緊急手術が必要であるのか否か診断上決め手がなく,困惑したまま消化器外科医へコンサルトした。
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