【Q】
H. pylori(Hp)感染診断結果が偽陰性となる恐れがあるため,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor;PPI)など静菌作用のある薬剤は中止後2週間以上経過してから検査するとされている。尿素呼気試験や迅速ウレアーゼ試験では当然であるが,抗体検査などにはなぜこの時間経過が必要なのか。偽陰性を避けるという理由であるなら,PPI以外にも抗菌薬や多くの胃薬も不可のはずだが,これらは査定されないのはなぜか。(静岡県 N)
【A】
厚生労働省からの通知に,Hp感染診断には,静菌作用のある薬剤の投与から2週間以上あけることが記されており,抗体検査も同様に扱われている。しかし,PPIがHpの抗体価に短期的には影響しないことに疑問の余地はない。
質問者の指摘する通り,Hpの抗体検査はその原理を勘案した場合に,PPI投与が短期的にその抗体価に影響するとは到底考えられない。逆に,たとえば,内視鏡検査で胃炎を認めた患者がPPI内服中である場合,Hpの感染診断をする際に最も適している検査方法が抗体検査ということになる。そのため,質問者の疑問はもっともである。
しかし,厚生労働省保険局医療課長通知保医発0221第31号を読むと,感染診断実施上の留意事項として,「(1)静菌作用を有する薬剤について」という項目において,「ランソプラゾール等,ヘリコバクター・ピロリに対する静菌作用を有するとされる薬剤が投与されている場合については感染診断の結果が偽陰性となるおそれがあるので,除菌前及び除菌後の感染診断の実施に当たっては,当該静菌作用を有する薬剤投与中止又は終了後2週間以上経過していることが必要である。」と記されている。ここに「ランソプラゾール等」と記されてあるので,静菌作用を有する薬物として特にPPIが査定の対象になったと思われる。
そして,最も問題であるのは,個々のHpの感染診断の検査の特性を考慮せずに,迅速ウレアーゼ試験も尿素呼気試験も抗体検査も,すべての検査を無分別に扱って,「当該静菌作用を有する薬剤投与中止又は終了後2週間以上経過していることが必要である。」としてしまったことである。そのために,抗体検査もほかの検査と同様の扱いを受けるようになってしまったと推察される。
この問題は,日本ヘリコバクター学会の委員会でも取り上げられており,厚生労働省に対して申し立てを行うこととなっている。ただし,PPIが抗体検査の結果に影響しないという論文がないのが懸念事項である。すなわち,抗体検査がPPIの影響を受けないという事実について論文をもって示すことができないのである。
しかし,短期的にはPPIがHpの抗体価に影響しないということは,医学の常識からすれば当然のことであり,疑問の余地はないことであるので,あえてこのことを研究する人もいなかったのだと思う。
いずれにせよ,抗体検査がPPIの影響を受けないということは,厚生労働省の医系技官の先生方にも容易に理解していただけることであると思うので,学会からの申し立てに対しても前向きに検討していただけると思う。そして,近いうちにこの問題は解決されると考えている。ただ現状としては,前記の文章が生きているので,査定されるという事態は当分続くかもしれない。