大動脈弁輪拡張症(AAE)は,大動脈解離や破裂をきたしやすく生命予後に関わる。AAEに対し,歴史的には人工弁付き人工血管を用いたBentall手術が行われてきたが,人工弁関連合併症を回避するために1980年代後半に自己大動脈弁を温存する術式が開発された。以後,症例の蓄積とともに成績は安定し,実施施設が増えつつある。
自己弁温存大動脈基部置換手術は,remodelingとreimplantationに大別される1)。remodelingでは,拡張したバルサルバ洞壁を切除後に,大動脈弁尖付着部に沿って残る弧状の大動脈壁に縁を3つの舌状にトリミングした人工血管を吻合し,冠動脈を再建,人工血管遠位端─上行大動脈断端吻合を行う。reimplantationでは,同様にバルサルバ洞を切除した後の大動脈基部構造を筒型の人工血管の中に収納しつつ人工血管の断端を左室─大動脈移行部に縫着,さらに大動脈弁尖付着部の遺残大動脈壁を人工血管内側に内縫い固定する。
手技が比較的簡便で,温存大動脈弁の挙動がより自然なため,弁の耐久性を期待しやすいのがremodelingの優位点で,縫合線が複数で止血を得やすく,大動脈弁輪部が人工血管断端で固定されるため,遠隔期の弁輪部拡張の予防効果が高いのがreimplantation法の利点とされる。remodeling法の弱点である遠隔期の大動脈弁輪部拡大の予防目的に,太いPTFE糸や短冊状のフェルトなどを同部に円周状にかけて補強する変法の報告もある2)。
【文献】
1) Miller DC:J Thorac Cardiovasc Surg. 2003;125 (4):773-8.
2) Aicher D, et al:Semin Thorac Cardiovasc Surg. 2012;24(3):195-201.
【解説】
縄田 寛*1,小野 稔*2 *1東京大学心臓外科特任准教授 *2同教授