近年の次世代シークエンサーを用いた腸内細菌叢の解析などから,炎症性腸疾患をはじめとした各種疾患の腸内細菌叢の異常が指摘されるようになった。この腸内細菌叢の異常は,“dysbiosis”と呼ばれている。このdysbiosisは,細菌種の数の減少や,少ないはずの細菌種の増加,あるいは優位であるはずの細菌種の減少などを指している。このdysbiosisが様々な疾患の病態に関与していることが明らかとなってきている。
炎症性腸疾患の病態形成にもdysbiosisの関与が指摘されており,腸内細菌叢を標的とした新しい治療の候補として糞便移植法(fecal microbiota transplantation:FMT)が注目されている。しかし,その効果についてはいまだcontroversialである。
筆者らの施設では,軽症~中等症の潰瘍性大腸炎症例に対するFMTの安全性と有効性の検討を行った1)。41例の潰瘍性大腸炎に対してFMTを施行した。FMT後8週間の臨床的寛解率は0例/41例(0%),臨床的改善率は11例/41例(26.8%)であった。また,FMTに伴う副作用発現率は0例/41例(0%)であった。ドナーの腸内細菌叢の変化とFMTの有効性には相関性が認められなかった。これらのことから,潰瘍性大腸炎に対するFMTは,安全性には問題はないが効果としては限定的である,と考えている。
今後,ドナーの選定,投与方法,投与回数,ドナー便の処理方法,さらに長期の安全性などを含めた検討が必要であると考えられる。
【文献】
1) Nishida A, et al:J Gastroenterol. 2017;52(4): 476-82.
【解説】
西田淳史*1,安藤 朗*2 *1滋賀医科大学消化器内科 *2同教授