国民の健康を維持・増進させる重責を担う医師を育成する医学教育については、教育の質を保証して良質な医師を輩出し、社会からの信頼を得ることが極めて重要である1)2)。わが国では、2004年以降、学校教育法の改正を受けて大学の機関別認証評価が義務化され、高等教育機関としての教育の質保証は実施されてきた。しかし、医師を育成する医学部の教育プログラムについては、評価する制度がなく、教育の質保証は必ずしも十分ではなかった。また、医学・医療のグローバル化が進んでいる現在、国際基準に基づいて医学教育の質を保証し、国際的に活躍できる医師を養成することも大切であろう。
アメリカの外国人医師卒後教育委員会(Educational Commission for Foreign Medical Graduates:ECFMG)の通告に端を発し、わが国でも日本医学教育評価機構(Japan Accreditation Council for Medical Education:JACME)が発足して医学部の教育を評価し、質を保証する体制が整った。
本稿では、JACMEによる医学部教育の質保証制度の状況を報告し、かつ今後の医学教育がどのように変わっていくのか、展望を紹介したい。
アメリカのECFMGは、2010年9月に「2023年以降、国際基準に基づいて認定された医学部以外の卒業者にはアメリカで医師になる申請資格を与えない」と通告してきた3)。この通告はいわゆる「2023年問題」としてわが国の医学教育関係者に大きな衝撃を与えた。
この「2023年問題」に対応すべく、まずは医学部での教育を調査解析している全国医学部長病院長会議内に「医学教育の質保証検討委員会」が2011年に設置され、医学教育の質保証の進め方についての議論が開始された。さらに、2012~16年度文部科学省大学改革推進事業として、東京医科歯科大学、東京大学、新潟大学、千葉大学、東京慈恵会医科大学、東京女子医科大学が連携して医学教育評価制度の確立を目指した検討を実施することになった4)。
ECFMGの通告に適合するには、世界医学教育連盟(World Federation for Medical Education:WFME)が認証する公的な評価機関が、国際基準に基づいて医学部の教育を評価し、認定する必要がある。そこで、文部科学省、全国医学部長病院長会議と協議を重ね、日本医学会連合、日本医師会、日本医学教育学会等の支援を受け、全医学部が正会員として参加する一般社団法人日本医学教育評価機構(JACME)が2015年12月1日に発足し、医学教育分野別評価を行い、医学部における教育の質保証を担当することになった5)。
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