2016年2~12月,当医院で「下痢とその他の消化器症状のみ」を主訴とした70人の患者に対して,初診時に糞便細菌培養・同定検査とA群β溶連菌迅速試験(溶試)を,そして大多数の患者に糞便ウイルス検査を行った。うち3歳以上の54例において溶連菌,糞便中の病原微生物(病原菌and/orウイルス)ともに45%以上の陽性率を認め,両者に相関はみられなかった。溶試(+)26例中に幾多の家族内感染が生じていたことから,溶連菌感染症の実在と症状の多様性が示された。下痢を溶連菌感染症の一症状としてとらえ,3歳以上の下痢患者に対しては,同感染症の存在を念頭に置いて診療する必要性がある。
日常診療において,初診時に溶連菌感染症と診断した患者が下痢を呈する事例がしばしば経験される。「溶連菌感染症と下痢」をキーワードとしてインターネット検索を行うと,溶連菌感染症の一症状として下痢の記載は散見される。しかし,両者の因果関係や頻度の記載はみられず,文献検索を行っても解明には至らなかった。
そこで,2016年2月から当医院において,「下痢とその他の消化器症状のみ」を主訴とする患者に対して積極的に糞便細菌培養・同定検査とA群β溶連菌迅速試験(以下,溶試)を行った。同年12月までの症例を集積し,解析した結果を報告する。
2016年2~12月の間に,下痢,便秘,嘔気・嘔吐,腹痛などの消化器症状を主訴とした初診患者101人に対し,糞便細菌培養・同定検査を行った。このうち87人に対して溶試を行ったが,17人は下痢がない,あるいは下痢があっても咽頭痛や咽頭違和感,咳,痰,鼻汁などの呼吸器症状も伴うとの理由で除外し,「下痢とその他の消化器症状のみ」を初発症状とする70人を対象とした。
うち68人に対しては,糞便アデノウイルス(以下,アデノ),ロタウイルス(以下,ロタ),ノロウイルス(以下,ノロ)のすべてあるいは一部検査も行った。
なお当医院では,同期間にのべ2010人の患者に溶試を行っており,784人(39%)が陽性を示した。
溶試は滅菌綿棒で患者の咽頭を擦過し,DSファーマバイオメディカル社の「A群ベータ溶血連鎖球菌抗原キット・クイックビュー Dipstick Strep A」を使用して,肉眼で陽性・陰性の判定を行った。
検体としての糞便は,初診時に,当院での自然排便あるいは肛門から綿棒を挿入して採取した。糞便細菌培養・同定検査は保健科学研究所に依頼して行った。ロタ,アデノは日本ベクトン・ディッキンソン社の「ロタウイルスキット・アデノウイルスキット(抗原検出用)・BD Rota/Adeno エグザマンTM スティック」にて,ノロはデンカ生研の「ノロウイルス抗原キット・クイックナビTM-ノロ2」にて,それぞれ検査した。
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