出生前診断では,超音波などで形態学的に診断され,障害などが指摘される場合がある
「重篤な」単一遺伝病の場合には,積極的に遺伝学的検査がなされることがある
染色体異常症に関しては,偶発的に罹患が指摘される場合と妊婦の希望により出生前診断がなされる場合があり,その適応・精度・リスク・費用などは様々である
出生前診断とは,妊娠中に行われる胎児に対しての診断であり,広義では着床前診断(受精卵や極体診断)も含まれる。出生前診断の方法は,主に以下の3つにわけられる。
超音波やX線,CT/MRI検査などで外表・内臓奇形,機能障害が診断される機会は多くなってきている。発育異常や特異的所見から先天異常症候群の診断に至ることもある。特に,超音波は胎児への侵襲は少ない一方で,性能向上および技術の進歩により,診断の幅が広がっている。妊婦健診における超音波は通常含まれないが,偶発的に罹患が疑われたり診断されたりする場合もある。また,超音波所見のうち,特定の疾患リスク上昇を示す所見(いわゆるソフトマーカー)もある。
母子感染に対する血清学的評価や羊水検体などでのウイルス同定,先天代謝異常症に対しての異常代謝産物の同定や酵素活性測定,開放性神経管閉鎖障害,ダウン症候群,18トリソミーに対しての母体血清マーカー検査や,羊水αフェトプロテイン(alpha-fetoprotein:AFP)・アセチルコリンエステラーゼ(acetylcholinesterase:AChE)測定などが挙げられる。
胎児由来の組織,細胞,DNA/RNA(着床前診断では割球や極体)などを用いて,染色体分析や分子遺伝学的診断を行ったりする。主に,単一遺伝病に対する遺伝学的検査と染色体異常症に対する検査に大別される。
多くは遺伝学的検査に該当し(図1)1) ,日本産科婦人科学会より見解2) が出ており,原則として「重篤な疾患」のみが出生前診断の対象疾患になると示されている。しかし,「重篤」の基準はいまだ定まっていない(一般に20歳までに生命を脅かす,もしくはQOLが著しく損なわれる疾患とされているが,重症度や重篤性を客観的に決められないような疾患もある)。
これらの手法により診断されうる疾患は多数あるが,すべてが診断可能とされているわけではなく,また,診断すべきとされているものばかりではない。中には,胎児治療や周産期ケアによる予後改善が見込まれる疾患もあるが,診断後の人工妊娠中絶(異常胚の廃棄)などの倫理的問題も包含するため,実施する際は慎重に対応する必要があり,可能な限り妊婦やカップルの意向を確認しておくことが大切である。
中でも,染色体異常症については,多くの妊婦が関心を持っており(たとえばダウン症候群など),また,診断精度の高い検査が提供できる(見つけやすい)ために,現在,出生前診断の目的の中心となっているが,それらは全先天異常の20~25%に相当するだけであることに留意すべきである。
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