【Q】
内視鏡のNBI(narrow band imaging)とFICE(flexible spectral imaging color enhancement)の特徴に違いはあるか。
また,NBIとFICEが原理的に異なるのであれば,どのように使い分けるとよいか。
そして,NBIまたはFICEがあれば,色素内視鏡(病変部へのヨードやインジゴカルミン散布)は不要になるのか。さらにNBI,FICEの限界点などもあれば。
上記について,文献を併せて。
(大阪府 T)
【A】
NBI/FICEの有用性は病変発見後の拡大観察下における腫瘍/非腫瘍の鑑別・範囲診断にある。病変の視認性向上・発見には色素法が優れており,目的に応じた使い分けが必要となる
内視鏡の視認性を向上させる観察法を画像強調内視鏡(image–enhanced endoscopy;IEE)と呼称する。IEEにはヨードなどを使用する色素法とNBI,FICEなど機器で強調処理を行うデジタル法がある。デジタル法は内視鏡機器に依存し,FICEは富士フイルム社,NBIはオリンパスメディカルシステムズ社の機器で使用可能である。
多くの場合,NBI/FICEを有効に使用するためには色素拡大観察が必要となる。実臨床で,内視鏡機器が選べる環境で検査をされている医師は少ないと思われる。このため,実際にはNBI/FICEの使い分けは困難と思われる。以下にNBI/FICEの原理と臨床成績を紹介し,回答とする。
ヒトは400〜700nmの光を知覚できる。短い波長光は組織表面の構造を,長い波長光は深部の情報を反映する。NBIは面順次方式の照明光RGBフィルターを,ヘモグロビン吸光度に一致した415nm(青色)と540nm(緑色)に変更している。
この波長の狭帯域光は血管内ヘモグロビンに吸収され,血管と周囲組織間にコントラストが生じ血管の視認性が向上する。415nm画像をRGB信号のB,Gチャンネルに,540nm画像をRチャンネルに割り振っているため,表層近くの毛細血管は茶色に,深層の比較的太い血管はシアン色に表示される。通常NBI観察で茶色の領域(brownish area)は血管密度の高い領域,拡大で茶色に表示される血管は粘膜表層の毛細血管,腺管開口部と上皮に相当する部分は毛細血管に囲まれたsurface patternとして認識できる。
FICEでは通常,光画像データの分光推定処理を行い,5nmごとの分光画像を得る。この分光画像から3画像を選択し,強度(gain)を設定し,RGB信号のチャンネルに割り振るため2700万種類のFICE画像が作成可能である。NBIは血管に特化した画像処理で,FICEは血管のほかにpitなど表面構造の強調が可能であるが,目的に応じた画像を選択する必要がある。
NBI/FICEはボタン操作により瞬時に強調画像が得られる点が優れている。診断は拡大観察下で粘膜表層の毛細血管の密度,形態とsurface patternから行う。FICEの毛細血管の描出能はNBIに比べて劣る1)。
臨床での有用性は臓器と目的(病変の視認性,良悪性の鑑別,腫瘍範囲診断や深達度診断)により異なる。腫瘍診断におけるIEEの有用性について回答する。
中下咽頭・食道早期癌の視認性向上にはヨード染色,NBI/FICEとも有用である2)。ヨード染色では特異度が低いことが問題であるが,NBI/FICE拡大観察ではintrapapillary capillary loops(IPCLs)の変化を観察することで腫瘍と非腫瘍,がん深達度診断が可能となる3)。バレット食道腫瘍の視認性向上には色素内視鏡,NBI/FICEとも有用である4)。
早期胃癌の存在診断には色素内視鏡(インジゴカルミン)が優れている。NBI/FICEはびらんとの鑑別,病変範囲診断に有用で,light blue crestを観察することで腸上皮化生の診断にも有用である5)。有用性は確認されているがNBI/FICE観察所見分類が統一されていないことが問題である6)。
早期大腸癌の存在診断では,NBI/FICEの有用性は否定されている7)。腫瘍・非腫瘍の鑑別には有用であるが,粘膜下層(SM)浸潤診断では色素内視鏡(クリスタルバイオレット)を用いた拡大観察で認識できる鶴田・工藤分類のⅢs,Ⅴi,Ⅴnの鑑別は困難である。NBI/ FICEを直接比較した臨床研究は少ないが,大腸腫瘍の見逃し率について報告がある。5mm未満の病変の見逃しはNBIで少なかったが,ほかでは違いはなかった8)。
炎症性腸疾患のがんサーベイランスでは色素内視鏡(インジゴカルミン)が有用で,NBI/ FICEの有用性は否定されている9)。
【文 献】
1)Muto M, et al:J Gastroenterol. 2011;46(8):998 -1002.
2)Muto M, et al:J Clin Oncol. 2010;28(9):1566-72.
3)Yoshida T, et al:Gastrointest Endosc. 2004;59 (2):288-95.
4)Qumseya BJ, et al:Clin Gastroenterol Hepatol. 2013;11(12):1562-70.
5)Hirata I, et al:Digestion. 2012;85(2):74-9.
6)Kikuste I, et al:Scand J Gastroenterol. 2013;48(10):1108-17.
7)Nagorni A, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2012;1:CD008361.
8)Yoshida Y, et al:Int J Colorectal Dis. 2013;28 (11):1511-6.
9)Tontini GE, et al:Aliment Pharmacol Ther. 2013;38(10):1198-208.