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結核菌検査の液体培地と固形培地の使い分け

No.4685 (2014年02月08日発行) P.62

青野昭男 (結核予防会結核研究所抗酸菌部細菌科主任)

登録日: 2014-02-08

最終更新日: 2017-09-21

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【Q】

結核菌検査において,迅速に結果が出る液体培地が普及しているにもかかわらず,未だ卵培地などの固形培地が用いられている。抗結核薬の感受性検査などでは,2,3カ月後に結果が出るが,これはどのような臨床的意義があるのか。
なぜ,我が国では固形培地が根強く使われているのか。どのような状況に応じて液体培地と固形培地を使い分けるとよいのか。
(東京都 O)

【A】

固形培地と液体培地にはそれぞれに長所と短所があり,組み合わせて用いるのが理想である。結核患者の減少に伴い,結核菌用培地の開発は必ずしも活発であるとは言えず,既存のものを工夫し用いることが望まれる

結核菌検査に用いる培地の特徴

結核菌の培養および薬剤感受性試験に用いられる培地には,大きく分けて固形培地と液体培地がある。固形培地では卵をベースとした小川培地が最も多く用いられており,ほかに寒天をベースとしたミドルブルック7H10寒天培地,あるいはミドルブルック7H11寒天培地がある。

液体培地はミドルブルック7H9培地をベースとしたものが主流であり,BDバクテックMGIT(ベクトン・ディッキンソン)やバクテアラート3D(シスメックス・ビオメリュー)などの自動機器培養装置を用いたものがある。

小川培地は乾燥しにくく,また形状が試験管培地タイプで場所を取らないなど,保存や培養の際の扱いが容易であることから現在も広く用いられている。これに対し寒天培地は,小川培地と比較して,より早い時期に菌の発育を確認することができるものの,培養に炭酸ガス孵卵器が必要であること,薬剤感受性試験用培地が市販されていないことから我が国では普及に至っていない。

迅速性に優れた液体培地は,多くの場合,分離培養から薬剤感受性試験までを1カ月以内で終了させることが可能である。しかし液体培地の価格は小川培地の約4倍と高額である。また液体培地を用いたシステムの多くは,自動培養装置を用いるため,高価な装置を準備する必要がある。

結核菌検査を取り巻く環境

現在の結核菌検査に用いられる分離用培地や薬剤感受性用培地の多くは,市販のものを用いるのが一般的である。このため,これらの供給はメーカー主導であり,主に収益の見込めるものが商品開発の対象となる。しかし,これが必ずしも検査の理想と一致するとは限らない。

『結核の統計2013』1)を見ると2012年に日本国内で届け出があった結核患者数は2万1283人で,欧米先進国と比較すると未だ高い状態ではあるものの,患者数は着実に減少しており,これに伴い結核に対する臨床医の意識は低下し,依頼される検査件数も減少している。

薬剤感受性試験に関しても同様のことが言える。

治療上,大きな問題となるイソニアジド(iso­niazid;INH)とリファンピシン(rifampicin;RFP)に同時に耐性を示す多剤耐性結核菌の分離率は新規登録患者のおよそ0.7%であり,専門拠点病院でこそ多剤耐性結核菌に遭遇するが,一般病院で遭遇することはごく稀なことと言える。このため国内における結核菌用培地の開発は近年必ずしも活発とは言えない。

結核患者の減少に加え,結核菌は日本細菌学会の病原細菌の危険度を示すバイオセーフティレベルで最も高いレベル3に分類され2),結核菌を扱う検査環境はバイオハザードに対する配慮が必要となる。このため細菌検査室を有する病院であっても,結核菌検査は外部の検査センターに委託するケースが少なからず認められる。

液体培地と固形培地の併用

液体培地は迅速性に優れているが,コロニーを形成しないため,色や形などのコロニー性状を目視にて確認することは不可能である。これに対してコロニーを形成する固形培地は目視にてその性状を確認することが可能である。また液体培地は検体中に複数の菌種が混在した場合,コロニーを形成する固形培地に比べ,見逃されてしまう危険性が高くなる。

さらに,固形培地は発育したコロニー数をカウントすることで検体中の菌量を把握することが可能であるが,液体培地ではこれを把握することはできない。一方で,雑菌が混入した際に,コロニーを形成する固形培地では雑菌の影響を回避できる場合があるため,雑菌汚染率が高い液体培地のバックアップとなりうる。

こうしたことから,分離培養には液体培地と固形培地を併用することが推奨される3)

液体培地と固形培地の使い分け

感染対策において重要な結核の検査は,より迅速であることが望ましい。また従来からの小川培地による薬剤感受性試験も,多剤耐性結核菌の治療における二次抗結核薬選定に欠かせず,同様に迅速化が求められる。しかし,結核菌検査を取り巻く環境は必ずしも良好とは言えず,現在の手持ちのツールを工夫し,使い分けるほかない。

すなわち,より迅速性が求められる初回診断時の3回連続の分離培養検査には,液体培地と固形培地を併用して用いることが望まれる。しかしコスト的側面から3回すべてにおいて両培地を併用するのが難しい場合,『結核菌検査指針2007』3)では,2回は液体培地のみで,残りの1回は固形培地のみを用いるなどの使い方の提案も示されている。

また治療開始後の経過観察には固形培地での観察で十分であると思われる。薬剤感受性試験では,一次抗結核薬であるINH,RFP,ストレプトマイシン(streptomycin),エタンブトール(ethambutol)には液体培地を用いて実施されることが好ましい。

ただし,INHまたはRFPのいずれかに耐性を示した場合,二次抗結核薬の薬剤感受性試験は,現時点で固形培地以外に適正な方法が示されておらず,小川培地を用いた方法で実施することになる。


【文 献】

 1) 結核予防会:結核の統計2013. 結核予防会, 2013, p3, p42.
  2) 日本細菌学会バイオセーフティ委員会:病原細菌に関するバイオセーフティ指針. 日本細菌学会, 2001, p50.
  3) 日本結核病学会抗酸菌検査法検討委員会 編:結核菌検査指針2007. 結核予防会, 2007, p6.


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