慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,肺の気腫化や末梢気道の狭小化によって労作時息切れや咳・痰などの症状が生じる疾患である。患者の多くは喫煙歴があり,たばこ煙や大気中の汚染物質などへの長期曝露歴が主因とされ,プロテアーゼ/アンチプロテアーゼ不均衡および,酸化ストレス制御機能の低下が病態を修飾すると考えられてきた。
一方,胎児期の母親の喫煙,小児期の肺炎,気管支喘息の既往などによる「肺の低発育」もCOPDの一因になりうると報告され,注目されている1)。肺は生後,体の成長に合わせて大きくなり,24歳頃に最大となる。1秒量でみれば24歳後プラトー期を経て,加齢により通常1年に20〜30mLずつゆっくりと低下する。肺の低発育は1秒量のピークの低下,プラトー期の短縮をきたし,正常発育肺に比べ,より早期に閉塞性障害に達する。
最近の大規模コホート研究で,成人早期での肺の低発育(対標準値1秒量の低下)群でCOPD発症比率が高く2),小児喘息を患ったことのある患者の呼吸機能を成人期まで測定した場合,健常人より対標準値1秒量の低下症例が多く,COPD発症率の上昇もみられた3)という結果であった。
COPDの発症予防には本人の禁煙だけでは不十分であり,誕生前の環境整備や喘息患者に対する綿密な呼吸機能検査の施行が必要ということであろう。
【文献】
1) Svanes C, et al:Thorax. 2010;65(1):14-20.
2) Lange P, et al:N Engl J Med. 2015;373(2):111-22.
3) McGeachie MJ, et al:N Engl J Med. 2016;374 (19):1842-52.
【解説】
一ノ瀬正和 東北大学呼吸器内科教授