近年、鎮痛薬の選択肢が増えたが、その一方で、多くの医師は感じているのではないか。「慢性疼痛患者の鎮痛薬の止め時はいつなのか」─。弊誌に寄せられたそんな読者の疑問を痛み治療の第一人者、小川節郎先生にぶつけた。
専門家でも止め時は難しい。そのためのデータもないので。
ただ強調したいのは、慢性疼痛の治療のゴールは痛みをゼロにすることではなく、患者が自分の生活を楽しめるようになること。痛みを理由に動かないと筋肉が萎縮し、関節が固まり、さらに痛みが増して心理的不安も強まる悪循環に陥る。そうならないように、多少痛みはあっても、薬を飲めばある程度、生活を楽しめるようになることを目指す。
端的に言えば、“患者の意識が前向きになって、活動性が増した時”が止め時。「最近、痛みが軽減して薬を飲み忘れるようになった」と言ったらチャンスだ。
その時には、単純に薬を中止するのではなく、徐々に弱い薬に変えて漸減していく。
癌性疼痛や急性疼痛の場合は可能でも慢性疼痛ではできない。そこまで投与量を増やしたら生命に関わる可能性がある。効果と副作用のバランスを慎重に判断しないといけない。
誤解を恐れずにいえば、医師も患者も混乱しているところがあるのではないか。麻薬処方せんが必要ないオピオイド系の麻酔性鎮痛薬が安易に処方されたり、副作用への対応に不安を感じる事例がある。
「いたみ」という、たった三文字の症状の中には、外傷や骨折などの「侵害受容性疼痛」、神経の損傷や機能異常による「神経障害性疼痛」、さらに心理・社会的問題から生じる「心因性疼痛」の3種類がある。こうした痛みの発生機序を理解しなければ適切な薬剤選択はできない。例えば、神経障害性疼痛に分類される帯状疱疹後神経痛の場合、炎症はないので非ステロイド性鎮痛薬は効かない。
痛み治療は薬だけでなく集学的治療が必要。活動性が増した時には「とてもいいことですね」と褒めるなどした認知行動療法や心理療法のアプローチも必要だし、病態に応じて理学療法や神経ブロック療法も必要。患者に痛みの性質を理解してもらうことも重要だ。
慢性疼痛治療の成否は、医師-患者関係の善しあしに強く影響する。痛みの有無だけにこだわっていると、投与量が増えるばかりで患者は永遠に満足しない。
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