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〈J-CLEAR主催座談会〉非劣性試験の問題点[J-CLEAR通信(85)]

No.4885 (2017年12月09日発行) P.50

桑島 巖 (東京都健康長寿医療センター顧問/J-CLEAR理事長)

名郷直樹 (武蔵国分寺公園クリニック/J-CLEAR)

折笠秀樹 (富山大学大学院医学薬学研究部バイオ統計学・臨床疫学教授/J-CLEAR評議員)

谷 明博 (加納総合病院循環器内科部長/J-CLEAR評議員)

登録日: 2017-12-07

最終更新日: 2024-11-15

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  • 非劣性試験の妥当性

    【桑島】最近,糖尿病治療薬や直接経口抗凝固薬(DOAC) などに関する大規模臨床試験が相次いで発表されていますが,その多くは,新薬が従来薬やプラセボに比べて非劣性であることを証明できたと結論づけています。

    こうした中で,名郷医師から「非劣性試験よりも,まず優越性試験を行うことが大事なのではないか」という問題提起が本誌に投稿されました〔J-CLEAR通信75(No.4849,p56)参照〕。
    それに対して「当然,新薬に優越性は必要であるが,既存の同種同効薬よりも有用な点があれば,従来薬に対する効果と安全性における非劣性を証明することが重要である」とする谷医師の反対意見がありました。
    そこで今回は,名郷先生と谷先生,そして統計学に造詣の深い折笠先生にお集まり頂き,非劣性試験の妥当性について議論して頂きます。

    【名郷】糖尿病の臨床試験の歴史をみると,血糖を下げることと,心血管イベントが減るということがまったくパラレルではなく,糖尿病治療薬が血糖を下げるだけで保険適用になるという現状そのものに,実は大きな問題があります。血糖を下げた分だけ合併症が減っていないということが,むしろこれまでで明らかになっていると思います。

    たとえばDPP-4阻害薬のトライアルでみると,安全性とは言いつつも,実際に評価しているのは糖尿病の合併症そのものなのです。そもそも安全性ではなく,イベントについての効果があるかを調べる以外にこの臨床試験の意味はないと私は思っています。
    なので,非劣性を示す意味がわからないです。心血管疾患は糖尿病に伴うイベントですから,これは安全性ではない。たとえばUKPDS33では,全糖尿病合併症を100から88へと,せいぜい1割ほど減らす効果があるとしているわけですから,ましてや非劣性試験で非劣性マージンを1.3取っていることを考えると,臨床家としてはまったく理解の外にある感じなのですが。

    【桑島】谷先生は,今回の糖尿病関連の試験で試験薬となったDPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬は,心血管イベント抑制のための薬というよりも,まず血糖値を下げる薬であることが前提となっており,それを世に出すためには安全性の評価が重要という見方をされているのですね。

    【谷】そうです。プラセボと比較して有意な血糖降下作用が示されたから,米国食品医薬品局(FDA)は糖尿病治療薬として承認したのです。決して,心血管イベント抑制薬として承認された薬剤ではないのです。ただ,ロシグリタゾンのような問題がありましたので,心血管イベントという有害事象が増えないことを示す義務を課したわけです。しかも,既に発売されている薬剤の試験ですので,時間がかかる優越性試験を行うことはできません。安全性に問題があるなら早く結論を出す必要があります。そのためには3年ぐらいで終わるように試験を組む必要がありますが,それを考えると非劣性試験になるわけです。

    非劣性試験を実施すれば,非劣性を証明した後でも優越性を示すことができます。しかしその逆,つまり優越性を証明できなかったので,せめて非劣性を証明しようというのは検証試験という特質上不可能です。エンパグリフロジンの上乗せ効果をみたEMPA-REG OUTCOME試験では,非劣性が証明されたからこそ次に優越性の検証ができ,またそれは優越性のエビデンスとなりました。そうした利点のため,最初は非劣性試験を実施するほうが適切ではないかということです。

    【桑島】まず安全性を証明すべきということですね。イベント抑制を目的とするのであれば,その後に優越性試験をやるべきだと。

    【谷】そうです。

    非劣性試験では必ず非劣性マージンを設定しますが,そのマージンがはたして適正なのかという疑問もあります。

      

    桑島 巖
    71年岩手医科大学医学部卒業,05年東京都健康長寿医療センター副院長,12年同病院顧問,09年J-CLEAR理事長

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