No.4891 (2018年01月20日発行) P.20
長尾和宏 (長尾クリニック院長)
登録日: 2018-01-22
最終更新日: 2018-01-17
多死社会が進むなか、在宅や施設での看取りの推進が謳われている。これまで看取りの法律について講義する機会がたくさんあった。看護職や介護職、一般市民は比較的容易に理解してもらえる。しかし、病院の医師にはなかなか理解してもらえず、何日も要したことがある。なぜ医師は医師法20条を理解できないのか。その理由について考えてみたい。
我が国において看取りは、1948年に施行された医師法20条に基づいて行われている。これは、「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない」という内容だ。死ぬ時に医者が居なくてもいい。死後でも診れば死亡診断書を書けますよとは、まさに在宅看取りを想定した法律に思える。医師法20条には次のような「但し書き」が付いている。「但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りではない」。これは条件を満たせば例外的に死後に診察をしなくても死亡診断書を発行できる、という意味である。「診察せずに死亡診断書を書くこと」を禁じる一方、「最後の診察後24時間以内の死亡には診察をしなくてもよい」という例外規定を設けている。もちろん都市部においてはこの「但し書き」を適用することはないだろう。いずれにせよ「死亡診断をしなくて書いてもいい」という趣旨を初めて聞く医師は、到底信じられないようだ。
一方、医師法21条は異状死体を見たら24時間以内に警察に届けなさい、という法律である。医師法20条に出る24時間と21条に出る24時間はまったく違う意味であるが、24時間という数字が共通するために混同されてきた。つまり、「診察後24時間以上経過したら死亡診断書を書けない。だから警察に届けなければいけない」という誤った解釈を、今でも都市伝説のように信じている医師がいる。医師法20条は、その「但し書き」が存在するために、施行直後から現在に至るまで医療現場に多くの混乱をもたらしてきた。主治医の不在時に患者が自宅や介護施設で亡くなり、死亡確認ができないと判断され「異状死体」として誤って扱われ、警察が無用に介入するケースがあちこちで散見される。