わが国には,高齢者に対する下部消化管内視鏡検査をどのように行うべきか記した指針はなく,各施設,各医療者にその判断が求められているのが現状である
80歳以上の高齢者でも大腸癌の早期発見や腺腫段階での内視鏡治療による大腸癌発生の抑制は十分意義があり,高齢者における大腸内視鏡検査による大腸癌スクリーニングも臨床的に意義があると考えられる。一方で,大腸内視鏡検査(治療を含む)における死亡例は高齢であるほど多く,70歳以上の症例が75.0%を占める
2014年1月に保険収載された大腸カプセル内視鏡検査は,腸管洗浄における負担にやや課題を残すものの,内視鏡挿入による負担やリスクをなくすことができ,今後高齢者におけるスクリーニング検査の選択肢の1つとして期待される
担当医は各症例の基礎疾患を含めた背景を把握するとともに,実年齢のみでなく全身状態や肉体年齢を十分見きわめて,検査の必要性,メリット・デメリットを大局的に判断し,個々の症例に応じて適切に対応することが重要である
高齢者の定義は一般的に65歳以上とされ,総務省統計局のデータによると,2017年7月1日におけるわが国の65歳以上の人口(概算値)は3502万人で,これは総人口の27.6%に相当する1)。通常,65歳以上の人口割合が21%を超えた社会を「超高齢社会」と呼んでおり,わが国はその定義を大きく上回っている。
今後,高齢者に対して下部消化管内視鏡検査を行う機会はさらに増加すると考えられるが,高齢者は基礎疾患を複数患っていることが多く,身体的予備能が低下していることが多いため,非高齢者と比較すると下部消化管内視鏡検査も相対的にハイリスクとなる。このため「高齢者に対する下部消化管内視鏡検査の実際」を論ずるにあたり,おのずと安全性が主題となる。
本稿においては,当院での取り組みを中心に,高齢者にいかに安全に下部消化管内視鏡検査を行うかについて述べる。
毎年,厚生労働省から簡易生命表が報告されている。平成27年簡易生命表によれば,平均寿命は男性80.8歳,女性87.1歳であるが,65歳時の平均余命をみると男性19.5年,女性24.3年であり,80歳時の平均余命は男性が8.9年,女性が11.8年となっている(表1)2)。
これらの情報から,たとえ80歳以上の高齢者であっても大腸癌の早期発見や腺腫の段階で内視鏡治療により大腸癌発生を抑制することは十分意義のあることと考えられ,高齢者における大腸癌スクリーニングも臨床的に意義があると考えられる。しかしながら一方で,高齢者ではしだいに悪性新生物よりも心疾患などの他疾患での死亡率が上昇するとされており(図1)2),検査や治療による偶発症のリスクとの兼ね合いも考慮する必要がある。
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