胃酸分泌抑制薬によって胃酸分泌が抑制されると,ジギタリスやスルホニル尿素薬(SU薬)の吸収は増加する一方,アゾール系抗真菌薬,ドンペリドン,一部の分子標的医薬,肝炎治療薬,エイズ治療薬では吸収が低下する
胃酸分泌抑制薬のうちプロトンポンプ阻害薬(PPI)やシメチジンはP450等を介して他の併用薬の代謝に影響する
カリウムイオン競合型アシッドブロッカーであるボノプラザンもクロピドグレルとの相互作用が報告された
胃酸分泌抑制薬の使用にあたっては併用薬の動態や効果に影響が出る場合があることに十分留意することが必要である
胃酸分泌抑制薬としては,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI),H2受容体拮抗薬(histamine H2 receptor antagonist:H2RA),そしてカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(potassium-competitive acid blocker:P-CAB)がある。これらはヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の除菌療法や消化性潰瘍,胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)等の酸関連疾患に対して広く使用されている。しかし患者は,時に他の併存疾患のためにいくつかの薬物を服用している場合があり,そうした薬物と胃酸分泌抑制薬との間に薬物間相互作用が起こることがある。
本稿では,胃酸分泌抑制薬が関わる薬物間相互作用について概説する。
薬物間相互作用は,大きく4つに分類される。①薬効に影響する場合,②吸収に影響を与える場合,③代謝が阻害・促進される場合,④排泄が阻害・促進される場合がある。胃酸分泌抑制薬はそのいくつかの局面で併用薬に影響しうる(図1)。
H. pyloriの除菌療法は,アモキシシリンやクラリスロマイシンといった抗菌薬に,胃酸分泌抑制薬であるPPIやP-CABのボノプラザン(以下VPZ)が用いられる。胃酸分泌抑制薬で胃内pHが高まることによって,H. pyloriはより増殖するようになり,抗菌薬への感受性が高まると考えられる1)。PPIよりもVPZのほうが胃酸分泌抑制効果は高く,そのため,VPZを除菌の補助役として用いると胃内での抗菌薬の安定性が高まり,また,H. pyloriの感受性も高まることにより,H. pyloriの除菌率も向上する2)。逆に,PPIの効果が不十分になりやすいCYP2C19のextensive metabolizerでは除菌率が低下する3)。
一方,緩下薬として広く用いられる酸化マグネシウム製剤は,胃酸分泌抑制により効果が減弱しやすい。酸化マグネシウムは胃内の塩酸と反応し,MgO+2HCl→MgCl2+H2Oにて塩化マグネシウムとなる。ついで,腸内で重炭酸と反応し,MgCl2+2Na HCO3→Mg(HCO3)2+2NaClにて重炭酸マグネシウムが産生され,これが腸管内への水分滲出を誘導し緩下効果が現れる。したがって,胃酸分泌抑制を行うと初期段間の反応が低下するため,緩下作用が減弱すると考えられる。
薬物によっては胃酸分泌が薬物の吸収に影響することが知られている。薬物は酸性,アルカリ性で溶解性が異なり,また,胃酸は薬物の安定性にも影響する。アゾール系の抗真菌薬であるイトラコナゾールは,PPIなどで胃酸が抑制されるとその吸収が低下し,血中濃度が低下することが知られている(図2)4)。胃酸分泌抑制が吸収に影響する薬物を表1に示す。回避方法としては,ケトコナゾールの場合,酸性の飲料(たとえばコーラ)での内服が有効との報告もある5)。
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