国立長寿医療研究センターなどが主催した「認知症医療介護推進フォーラム」(2月18日)で、改正道路交通法(用語解説)の施行から1年を迎えるに当たり、「自動車運転と認知症」をテーマにしたシンポジウムが開かれ、医師、介護職、警察庁担当官、自動車の専門家らが意見を交わした。
岡本努氏(警察庁)は、改正道交法施行後の認知症診断に関するデータを公表。それによると、昨年7月末までに「第1分類」の人を診断した医師は、専門医が4割、非専門医(主治医等)が6割。第1分類のうち「認知症」と診断された人は2割に満たず、「機能低下」が約6割、「認知症ではない」が約2割を占めた。また、2017年中の免許の自主返納件数は、前年から7万6720件増えて42万2033件となり、75歳以上の返納が大きく伸びていた。
これらを踏まえ岡本氏は「当初懸念されていた(診断が)専門医に集中する事態は起こらず、高齢者に身近なかかりつけ医がたくさん診断している」と総括。第1分類に占める認知症の人が少ない点には「当然(認知機能検査への)疑問が出ると思う」と述べた。
精神科専門医の三村將氏(慶大)は「認知機能と日常生活動作が正常で、運転・家事などに支障がない軽度認知障害(MCI)の状態では、非常に慎重な診断が必要となる」と指摘。認知症という診断名のみを根拠に免許取消とするのではなく、運転可能な時間や範囲に一定の制限を設ける「限定付免許」を導入するなど、柔軟な制度が求められるとした。免許更新の是非については「実車による運転能力の評価をゴールドスタンダードにすべきだ」と強調した。
助川未枝保氏(日本介護支援専門員協会)は、ケアマネジャーの立場から「自主返納を勧めることは業務範囲を逸脱していないかと躊躇してしまう。家族が車の鍵を取り上げるのを認めれば利用者の決定権を奪いかねない」と、認知機能が低下した高齢運転者と接する際に陥るジレンマを紹介した。
髙橋信彦氏(日本自動車工業会)は、今後10年間で65歳以上の運転者が1.6倍に増えるとの予測を踏まえ、運転支援技術の開発が「自動車業界にとっても先例のない挑戦となっている」と述べた。 技術開発の状況としては、運転特性を類型化し、交通違反を起こしやすい高齢者のタイプを把握する研究が進んでいるものの、「個人差が大きく、高齢者を一括りにした運転支援技術は困難」との課題を指摘。一方で、カメラで歩行者を検知して自動的にブレーキをかける機能を搭載した「サポカー」が普及しつつあり、政府がサポカーを新車の9割以上とする目標を掲げたことには「期待が持てる」と述べた。運転者が操作をする必要がない「完全自動運転」については「自家用車への導入には相当時間がかかる」との見解を示した。
島田裕之氏(国立長寿医療研究センター)は、約5000人を対象とした約4年間の追跡研究の結果を基に「自動車を運転していない人は、運転している人に比べて認知症リスクが有意に高くなることが分かった」とした上で、「『運転寿命』の延伸がカギとなる」と強調。
さらに、自動車教習所で実車やシミュレータを使って講習を受けた群は、座学のみの群に比べて路上検査の合計得点が有意に高くなったとの比較対照試験の結果を示し、「訓練で運転技術は確実に向上し、高齢者の健康保持にもつながる可能性がある」とした。ただし、訓練による事故防止効果については「エビデンスの確立には至っていない」と付け加えた。