進行胃癌の切除時には,腹膜再発を予防する目的で慣習的に網囊切除,すなわち大網と横行結腸間膜前葉および膵被膜の切除を行うことが多かった
近年,大規模なランダム化比較試験(JCOG1001試験)が実施され,網囊切除には予後延長効果を認めないことが明らかとなった
今後,腹膜再発予防目的で網囊切除をルーチンに行うことはないであろう
1990年代までのわが国では,進行胃癌の手術の際に網囊切除,すなわち大網と横行結腸間膜前葉および膵被膜の切除が広く行われてきた。網囊腔とは,大網,小網,胃後壁,膵臓,横行結腸間膜前葉,胃脾間膜などによって囲まれた空間で,肝十二指腸靱帯後面のウィンスロー孔によってその他の腹腔とつながっている(図1)1)。胃後壁など網囊腔内に露出する腫瘍はまず網囊腔内に散布され,網囊腔の腹膜表面に微小転移や微小浸潤をきたすと考えられていたため,網囊腔表面を覆う腹膜を切除することにより,腹膜再発を予防できると考えられていた。
一方,網囊腔は密閉された空間ではなく,ウィンスロー孔で腹腔に通じていることや,幽門側胃切除の際には完全な網囊切除は困難であることなどから,その効果については疑問視する向きもあり,腹膜播種や局所再発を本当に減少させるかどうかのエビデンスがないまま慣習的に行われてきた。「胃癌治療ガイドライン(医師用第4版)」でも「腹膜再発の予防に有用であるとのエビデンスはない。血管や膵の損傷をきたすこともあることから,少なくともT2までの胃癌においては省略することが望ましい」と記載されていた。