JCOG0110試験の結果により,胃癌に対する脾摘の位置づけが大きく変わる
大弯線に浸潤のない上部進行胃癌では脾摘は避けるべきである
4型胃癌や大弯に限局する上部胃癌の脾摘の是非については今後の課題である
胃癌の治療方針の決定は「胃癌治療ガイドライン」に従うことが多いと思われる1)。
「胃癌治療ガイドライン第3版」からは,日常診療で推奨される治療法選択のアルゴリズムが示されるようになった。これは術前診断に沿った治療アルゴリズムであり,術後病理所見による化学療法追加の有無をわけて記載しており,日常診療に即したものになっている。外科診療上は,胃切除範囲の明記と切除術式別リンパ節郭清範囲の固定化が示された。
同ガイドラインは3年に1度程度改訂されることになっているが,通常は化学療法の進歩が目覚ましく,改訂内容は内科サイドのものが多い。しかし第5版では,日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)胃がんグループを中心とした重要な臨床試験の結果がいくつか発表されたため,外科も大幅に改訂され,実地臨床に大きな影響を与えると思われる。その中でも最もホットな内容が脾摘の位置づけの変化だ。
胃と脾臓は隣接する臓器であり,解剖学的には胃脾間膜を通じて繋がっている。そのため胃癌の治療,特に近年増加傾向にある上部胃癌の治療を検討する上では切り離して考えることができない臓器である。
わが国においては胃癌に対するD2リンパ節郭清は安全,確実に施行可能で,治療成績も優れていることから標準的に行われてきた。上部胃癌においては20~30%で脾門部にリンパ節転移があることから,同部位を完全に郭清する目的で脾摘が行われ,転移陽性例の20~25%が5年生存を得ている2)3)。しかし,欧州で行われた胃切除に関する臨床試験では,脾合併切除は手術合併症や手術関連死亡の重要な危険因子となっている4)。