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医師も金融老年学を学ぶ時代[長尾和宏の町医者で行こう!!(83)]

No.4898 (2018年03月10日発行) P.20

長尾和宏 (長尾クリニック院長)

登録日: 2018-03-12

最終更新日: 2018-03-07

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増加する認知症裁判

最近、親の認知症の有無を巡る子ども間の争いに巻き込まれることが増えてきた。町医者としてしっかり本人・家族と話し合い、穏やかな在宅看取りが終わった後の話である。その大往生に寄り添い1〜2年も経ってから突然、弁護士さんを通じてカルテ開示の請求が来る。「何か医療ミスでも?」と一瞬身構えるが、決してそうではない。兄弟で遺産相続争いをしているという。

その最大の争点とはなにか。息子や娘が他の兄弟に黙って遺言を書かせたり、親を連れて預金を下ろしに行っていた場合に、本人に認知症があったかなかったか尋ねられる。90歳を過ぎた要介護5の人が、いくらしっかりしていると言っても、認知症の有無を問われれば「あるといえばあるし、ないと言えばない」としか答えられない時がある。有無ではなく程度の問題だ。外来で忙しい中、双方の弁護士さんから何度も電話がかかり難しい書類が届く。「カルテを見れば、認知症があるかないかくらい医者なら分かるでしょう」と迫られる。それぞれの子どもたちは自分に有利なほうの判断を強く求めてくる。しかし、一方を肯定することは同時に他方を敵に回すことになる。一生懸命に看取りまでやり遂げた後に、こんな認知症裁判に巻き込まれると本当に煩わしいし情けない。いくら終わりが良くても、平穏死以後が怖い。

一方、亡くなった後ではなく、生きている軽度認知障害の高齢者の資産管理をめぐるトラブルに巻き込まれることも増えている。親の銀行預金の引き落としを巡り、銀行側から認知症の有無の判定を迫られたという子どもからの相談も持ち込まれる。かなり煩雑そうだと思った時は、運転免許の更新と同様に、認知症疾患医療センターに紹介する。しかし、紹介されたほうもきっと困ることだろう。あるいは成年後見制度の利用を勧めるが、まだ充分に市民権を得た制度とは言えない。私自身は、成年後見制度の鑑定を年間数件程度引き受けているが、「後見」「保佐」「補助」のどれに判定するか迷うことも少なくない。子どもに「忖度」するかしないか悩ましい。また「申立人」「後見人」などの意味を知らない医師もいる。そもそも、医師は患者さんの資産保全や財産分与に関する教育を受けていない。成年後見制度を推進する団体から講演を依頼されたことが何度かあった。後見人を巡り弁護士や司法書士、市民らが競合している現状を見て、どこを頼ればいいのか迷う。

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