わが国の「乳癌診療ガイドライン」でも「HER2陽性原発乳癌に対する術後化学療法」に「強く勧められる」とされているトラスツズマブ(ハーセプチン)だが、かねてより心毒性が問題視されてきた。本学会では、トラスツズマブ心毒性抑制作用を、アントラサイクリン系薬剤で有用性が示唆されているACE阻害薬とβ遮断薬で検討したランダム化試験が報告されたが、心保護作用は認められなかった。ケンタッキー大学のMaya E. Guglin氏が報告した。
本試験の対象は、左室駆出率(LVEF)50%以上で、術後トラスツズマブ治療が予定されているHER2陽性の乳癌468例である。すでにβ遮断薬やレニン・アンジオテンシン系阻害薬を服用している例は除外されている。試験開始時の平均年齢は51歳、LVEF平均値は63%だった。これらはACE阻害薬群(リシノプリル10mg/日)、β遮断薬群(1日1回型カルベジロール10mg/日)とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で52週間追跡された。
その結果、1次評価項目である「心機能非低下生存率」は、3群間に有意差はなかった。ただし、トラスツズマブとアントラサイクリン系薬剤を併用していた184例のみで解析すると、治療群で減少が認められた(対プラセボ群オッズ比は、β遮断薬群:0.49、ACE阻害薬群:0.53、いずれも有意)。
アントラサイクリン系薬剤にトラスツズマブを併用すると、心毒性が3-4倍に増えるとする報告があるため [Seidman AJ,et al:Clin Oncol.2002;20(5):1215-21] 、「これら併用例にはリシノプリル、またはカルベジロールを考慮すべきではないか」とGuglin氏は問いかけた。
本試験は、米国国立がん研究所から資金提供を受けた。