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医療保護入院中の精神疾患患者の検査・手術時にインフォームドコンセントはどうするか?【未成年の場合は法定代理人である両親等,成人後は相続人から同意を得る】

No.4899 (2018年03月17日発行) P.60

長谷部圭司 (北浜法律事務所・外国法共同事業大阪事務所 弁護士)

登録日: 2018-03-15

最終更新日: 2018-03-13

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医療保護入院中の精神疾患患者が検査や手術を受ける際,本人からインフォームドコンセントを得られない場合があると思います。このような場合,「強制的な入院であるから,家族から了承が得られれば検査や手術も可能なのではないか」とする意見を聞きましたが,基本的にはどのように考えればよいでしょうか。

(岐阜県 K)


【回答】

ご質問の前提として理解されている通り,インフォームドコンセント(informed consent:IC)とは,患者が「十分に説明を受けた上で行う同意」のことです。しかし,ICとは「説明」のことと理解されている医療関係者が多いので,この点を解説しておきます〔詳しくは回答者著書『意思決定能力低下患者の診療における法的問題への処方箋』(日本医事新報社,2017年)p6~15参照〕。

そして,患者がICをするためには,医師の説明を理解し,同意できるかどうかの判断ができる思考力が必要となります。つまり,医療保護入院をせざるをえない状況の精神疾患患者であることを前提とすると,この患者はICすることはできません。できたとしても,そのICは有効とは言えず,この際のICに従って治療したからといって,患者の同意に基づく治療を行ったと言えません。

このような場合には,患者に代わってICできる人に説明をして,同意をもらうことになります。代わりにICできる者とは,患者が未成年であれば法定代理人である両親等であり,成人後は相続人ということになります(詳しくは前述書籍p16~24参照)。なお,精神保健福祉法第33条に規定する「家族等」であると考えることは少し危険です。なぜなら,医療保護入院をさせるということは,患者に損害を与えないように現状を維持するもので,財産で言うところの「管理行為」のうち「保存行為」(財産の価値を現状のまま維持する行為)に当たると考えられますが,別疾患の新たな治療を行う場合は,様々なリスクを負って行う点で「処分行為」(財産の現状または性質を変更したり,財産権の法律上の変動を生じさせたりする行為)に近いものと言えるためで,「保存行為」が行える者だからといって,「処分行為」が行える者ではないからです。ですので,配偶者だけに聞けば大丈夫とは言いにくいところがあります。また,成年後見人などには医療における同意権はないとされており,この点からも,同条に規定する者がICできると考えることは困難と思われます。

ご質問の「強制的な入院であるから,家族から了承が得られれば検査や手術も可能」という点ですが,この特定の家族が医療保護入院に同意した者のみであるとすると,間違いになりえます。今回の医療保護入院とは,患者が自分自身や周りの人間等を傷つけないようにするために行われるもので,現状を維持するために行われる「保存行為」的なものと考えられます。そのような入院と,新たな積極的治療を行う場合を同じように考えることはできません。あくまでも,新たな治療を行おうと思うのであれば,きちんとICできる者たちに説明をして同意を得なければいけません。

ここで問題となるのは,患者に代わってIC者が同意したとして,患者がどうしても反対している場合です。患者に十分な判断能力がないとはいえ,反対している場合に治療を強行できるかは,容易に答えの出る問題ではありません。たとえば,明らかに患者の利益になる治療で,行わなければ相当の不利益を被るような場合には,患者の意思に反しても治療を行うことができると考えられますが,一方で利益になるかどうか判定が難しい場合や,利益にはなるが不利益の可能性も十分ある場合には,患者の意思に反して治療を強行することができるかは疑問です。どの場合においても,大事なのは,患者が正常であればどう考えたか,どう選択したかしっかり考えることで,その上で治療するべきかどうかを判断すべきです(詳しくは前述書籍p98「12 意思無能力者の意思決定」参照)。

【回答者】

長谷部圭司 北浜法律事務所・外国法共同事業 大阪事務所 弁護士

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