【質問者】
夜久 均 京都府立医科大学大学院医学研究科 心臓血管外科学教授
自己弁温存基部置換術(valve-sparing aortic root replacement:VSRR)の代表的な対象疾患として,MFSや類似疾患のロイス─ディーツ症候群(Loeys-Dietz syndrome:LDS)など遺伝性結合織疾患(connective tissue disease:CTD)の多くにみられる大動脈弁輪拡張症(AAE)があります。若年症例がほとんどで人工弁の使用の回避や大動脈解離(aortic dissection:AD)の発症を念頭に置く必要もあり,術式の選択やその精度は重要な課題です。
まず,CTDにおいては自己弁自体が脆弱でfenestrationも多く,VSRRでの自己弁の耐久性が疑問視されてきました。CoselliらによりMFSの基部置換においてBentall手術とVSRRの前向き比較試験が現在も継続調査中です。中期成績の検討では,experienced centerを中心にVSRRが優先され,少なからず再手術例を認めてはいますが,Bentall手術に比べ出血・塞栓症が少ないとの報告があります。同様にCameronらは,MFS例の外科治療後の遠隔成績から,早期(AD発症前,基部径45mm前後)の積極的基部置換が重要であり,特にVSRRの意義が大きいとしています。
次に,MFSに対するVSRRの遠隔成績に関して,先のジョーンズ・ホプキンス大学やトロント大学を含むexperienced centerからの報告は,自身の成績を含め,reimplantationに限ったものが多く,再手術例も少なく良好です。一方,MFSに対するremodeling,特に最近の弁輪固定remodelingの遠隔成績を扱った文献はいまだ少ないです。remodelingの推奨者であるSchäfersの報告においてもMFSは7%以下であり,最新の報告によればreimplantationと遜色ない中期成績であったとしていますが,さらなる遠隔成績を見る必要性が示唆されています。また,CTDではADを発症しやすく,交連部組織に解離を認めてもreimplantationでは大きな問題となりませんが,remodelingでは交連部の縫着や後出血処理が難しくなります。
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