植込み型左心補助人工心臓(LVAD)がわが国で保険償還され7年が経過した。現在,植込み型LVADは心臓移植適応のある患者のみが対象となるが,欧米では十数年前から,移植を前提としない植込み型LVADの使用(destination therapy:DT)が始まっており,DTの妥当性がいくつかの臨床研究を通じて証明されてきた。わが国においても,移植適応とならない患者をDTの適応として認めることが検討されており,重症心不全のあり方が再考されつつある。
わが国は,深刻なドナー不足である。ゆえに,すべての重症心不全患者が移植の対象となるわけではない。年齢制限もそのひとつである。待機患者数は年々増加し,植込み型LVADで長期間移植待機する患者も増加している。現在は,移植適応患者のみに使用が制限されているが,工業生産物である植込み型LVADを移植適応年齢に限る医学的根拠は本来乏しい。しかし,LVADは疾病の自然死に対する強力な介入手段でもある。生命維持装置であるがゆえ,治療開始前に,患者,家族らが,終末期を意識せざるをえないという生命倫理的な問題に加え,高額な医療機器ゆえ,急速に高齢化社会を迎えるわが国での次々世代までの医療負担の問題を抜きにして,DTを展望することもできない。植込み型LVADが適正使用されれば,通常の医療と比して低コストで生命予後,QOL改善効果が著しい医療を提供できる可能性があると報告されるが,わが国で成り立つかは今後も検証が必要である。課題は山積だが,植込み型LVADの普及につれて,合理的な治療手段として成長していくことが期待される。
【解説】
石井俊輔 北里大学循環器内科