ベンチマーク用量(benchmark dose:BMD)の概念は,Crumpらにより発表されて以来,米国の環境保護庁や,WHOの環境保健クライテリア等において取り上げられ,近年注目されている。
この方法では,まず有害物質等に関する量-反応曲線を算出する。そして,横軸の零点における,非曝露群での有害影響のリスクから,5%や10%の上昇が見込まれる曝露量がBMDである。さらに,BMDの確率的な変動を考慮するため,BMD low(BMDL)として,BMDの95%信頼区間の下限を算出する。これまで,リスク評価においては,最大無有害影響量(NOAEL)が用いられてきた。NOAELは,非曝露群と比較して,有害影響の増加が有意ではない群のうち最大の曝露量である。しかしながら,曝露量の設定や,各群の標本数による検出力が,NOAELに影響しうる。NOAELを超えた曝露領域における量-反応関係も結果に反映されない。また,たとえば日本人の一般環境からのカドミウム曝露のように,一切曝露のない非曝露群の設定が困難な場合があり,代わりに「非曝露群」として用いられる非汚染地の対照群の曝露レベルがNOAELに与える影響も考慮する必要がある。
一方,BMDLについては,必ずしもそのような対照群を設定する必要がない。また,量-反応曲線全体を反映する算出法であるため,情報量の損失が少ないこと,標本サイズが大きくなればなるほど,より信頼性の高い値に収束する性質があること,非曝露群に比してどの程度のリスクの上昇が見込まれるかという情報を含んでいること,などの利点がある。そのため,リスク評価の際に,NOAELの代替として有用とされ,近年多くの曝露による有害影響に関して算出されている。
【解説】
諏訪園 靖 千葉大学環境労働衛生学教授