(東京都 M)
経腸栄養管理を行っている高齢者での低ナトリウム血症の発生頻度は高く,70歳以上の高齢者での発症率は10.4%と報告されています。また,そのほとんどは軽症であるとの報告もあります。経管栄養による低ナトリウム血症の多くは,経腸栄養剤からのナトリウム摂取量が少ないことに起因しており,ナトリウム摂取量は経腸栄養剤も含めた全体の塩分として,6~7gとされています1)。
経管栄養を行っている患者の不足のナトリウムは,食塩を注入することによって補う必要があります。通常,補給方法として,経腸栄養剤に直接食塩を添加したり,水に溶解して注入する方法があります。
前者の方法では多くの場合は問題ないと考えられますが,場合によっては経腸栄養剤中の脂肪の粒子径が増大し,吸収が悪くなると言われており,推奨されていません。一般に食塩を水に溶解して注入する方法が推奨されます。しかし,食塩を少量の水で高濃度に溶解して注入すると,胃や小腸粘膜に障害を起こす可能性があります。
森川ら2)は,食塩1gを水20mLに希釈して空腸瘻より注入することで,限局性小腸炎を発症したと報告しています。また,飯島3)は,食塩4gを水20mLに溶解して胃瘻より注入することで,胃出血を起こしたことを報告しています。いずれの報告も,高濃度の食塩を注入することで,胃や小腸の粘膜細胞が高張食塩水により高浸透圧となり,細胞内脱水を起こしたと考えられます。
今回の質問での胃瘻などによる経腸栄養剤投与時のナトリウムの投与速度に関する明確な基準は,ガイドライン等で示されていません。経管栄養管理を行っている患者へ食塩を注入する場合,経腸栄養剤中のナトリウム量も含めた摂取量を考え,また高張食塩水注入による胃や小腸粘膜の障害を防止するために,経管栄養でのナトリウムの摂取は食塩を1g/100mL以下の濃度で水に溶解して補充すべきであると考えます。
【文献】
1) 丸山道生:静脈経腸栄養. 2009;24(3):761-7.
2) 森川充洋, 他:日臨外会誌. 2007;68(7):1723-6.
3) 飯島正平:Nutrition Care. 2015;8(10):1040-5.
【回答者】
名德倫明 大阪大谷大学薬学部薬学科実践医療薬学講座教授