現在わが国は高齢者人口が25%を超えており、約10年後の2025年には75歳以上の後期高齢者が2000万人を超える時代が訪れる。平均寿命が延伸し、元気な高齢者が増えているとはいえ、健康寿命は男性で約9年、女性で約13年、平均寿命より短い。これは、男性は平均して死を前にして9年間要介護状態にあり、女性は13年間要介護状態にあることを意味する。したがって、健康寿命をいかに延伸し、要介護高齢者を減らすかが世界一の長寿国である日本において喫緊の課題であり、そのためにも老年学、老年医学の重要性は計り知れない。
65歳以上75歳未満の前期高齢者と75歳以上の後期高齢者を比較すると、後期高齢者は加齢による様々な生理的予備能の衰えにより、外的なストレスに対する脆弱性が高まり、感染症、手術、事故を契機として元の生活機能を維持することができなくなることが多くなってくる。要介護高齢者の割合も前期高齢者では5%未満であるが、後期高齢者で約30%となり、大きな差を認める。また、外来で後期高齢者の診療をしていると、特別な食事療法を行っていないにもかかわらず、1年くらいでゆっくり体重が減ったり、疲れやすさ、体力の衰えを訴える患者を診ることが多い。
体重減少や易疲労感の原因精査のためには、まずは薬物による副作用の有無を確認すべきである。副作用が認められない場合、がん、甲状腺機能低下症、リウマチ性多発筋痛症(PMR)などの炎症性疾患、膠原病、貧血、心不全、冠動脈疾患、腎不全、気管支喘息、COPD、うつ状態の有無について精査するが、それでも異常を認めないことがある。たとえば、がんなどの消耗性疾患であれば、病態は一般に進行性であり、食欲不振なども合併することが多いが、そうでない場合は、診断に迷うことがある。国際疾病分類第10版を見るとこのような病態の診断名としてFrailty(R54)が出てくる。そこにはAge-related physical debility(加齢による身体の衰弱)との説明があるが、加齢に伴う様々な機能変化や生理的な予備能力の低下によって健康障害を招きやすい状態と理解すればいいであろう。
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