機能性ディスペプシア(FD)は,内視鏡検査等で明らかな病変を認めないにもかかわらず,心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とした腹部症状を慢性的に訴える疾患である。生命予後には影響しないが,身体・精神・生活面で,広く障害をもたらす。QOLは「生活の質」と訳される,肉体的・精神的・社会的機能を含んだ概念である。健康関連QOL(HRQOL)は患者の自覚するQOLを定量的に評価するための概念である。FDでは幅広くQOLを低下させることになるため,QOLやHRQOLはFDのアウトカムとして重要である。
ピロリ菌の除菌や酸抑制薬の発達をはじめとした医療の進歩に伴い,多くの器質的上部消化管疾患は治癒,コントロールもしくは予防可能となってきた。この中にあって,胃十二指腸由来の症状にもかかわらず,原因となる器質的異常を指摘できない機能性疾患,すなわち機能性ディスペプシア(FD)が近年,注目を集めている。かつては,慢性胃炎や神経性胃炎等の病名に包含されていたと考えられる本疾患は,ようやく疾患としての独立性を確立し,わが国においても診療ガイドラインが作成されるようになった1)。
本稿では,本ガイドラインをふまえて,FDの重要なアウトカムであるQOLにつき概説する。
「機能性消化管疾患診療ガイドライン2014─機能性ディスペプシア(FD)」は日本消化器病学会を中心とし,日本消化管学会,日本神経消化器病学会の協力のもとで,第一次ガイドライン6疾患に引き続き作成された第二次ガイドライン4疾患のひとつとして,2014年4月に刊行された1)。第二次ガイドラインの作成にあたっては,新たにGRADEシステムが採用され,単にエビデンスの程度,質等の評価に基づいてではなく,患者のアウトカムにとって有用か否かを重視して,臨床介入や推奨が決定されている。このように患者のアウトカムを重視する視点は,FD診療を行っていく上でまさに最も肝要なポイントであり,本稿においても,このような観点から解説する。
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